5期・51冊目 『時砂の王』

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

西暦248年、不気味な物の怪に襲われた邪馬台国の女王・卑弥呼を救った"使いの王"は、彼女の想像を絶する物語を語る。2300年後の未来において、謎の増殖戦闘機械群によって地球は壊滅、さらに人類の完全殲滅を狙う機械群を追って、彼ら人型人工知性体たちは絶望的な時間遡行戦を開始した。

人類が宇宙に進出して久しい25世紀。そこに突如増殖する機械型の異星人が襲来し、地球はあっけなく壊滅。太陽系において序盤に敗退を重ねるも、やがて反攻に転じる人類。しかし時間遡行技術により過去の脆弱な人類への攻撃を企図した敵を追うため、メッセンジャーと称する人型人工知性体は過去への片道時間旅行に旅立った。
過去に起こったことの連続によって現在が存在するのならば、過去の出来事を変えると未来が変わってしまう(分岐する)というタイムトラベル(タイムスリップ)ものではお馴染みの因果律および並行世界(作品内では時間枝)をふんだんに使った作品です。
主人公のO(オーヴィル)を始めとする人工知性体は、人間と同じように感情を持ち、恋愛さえ可能。25世紀では人工知性体が社会的な役割だけでなく隣人として当たり前に迎え入れられているかようです。その彼が時間遡行に旅立つ前にサヤカという女性とかけがえのない時を過ごしたことが、今回の任務に対して多大な影響を与えているようですね。*1


十万年前の人類発祥の時でまで遡って守りを固めた本隊とは別に、数百年単位で時間を遡って異星人との戦いを繰り返していくオーヴィルたち。地球規模の危機に直面しても人間たちは目の前の利害に執着するばかりにその隙を衝かれてしまう。
結局、戦いの最終局面である邪馬台国の時代にオーヴィルが訪れて卑弥呼と手を組むことに。そこに至るまでの過去の戦い(時間軸で言えば未来なんだけど)のシーンではいくらでもストーリーが膨らませられそうなんですが、そこはあえてばっさり切り捨てた上でこれ以上は引けない事情があることを伝えています。
それはオーヴィルの想いはこの一言に込められているのです。

私は2300年後の世界から来た。
だが、ここの未来からではない。
多くの滅びた時間枝を渡ってきた。

考えてみればこれだけのスケールの大きい内容をわずか276ページで程よくまとめてかつ充分な読み応えを感じさせられるのがすごい。それに加えて邪馬台国という時代の雰囲気と戦いに向かう人々の熱気もよく伝わってきますね。終盤の山場はぞくぞくさせられました。

*1:過去に介入するために未来が分岐してしまい、二度と元いた場所に帰れない(彼女と逢えない)時間戦士の宿命が泣かせる