5期・42冊目 『靖国への帰還』

内容(「BOOK」データベースより)
あの日の空、あの時の想いは、いまへとつながっている。若者たちが純粋に生き、散った時代があった。そしていま、信じることを忘れた現代に、彼は何を見るのか。還るべき場所を失くした青年が探し求めた使命とは。人の生き方、あり方を問う感動の書下ろし長編小説。

夜間戦闘機「月光」に乗ってB29迎撃の任についていたパイロットが戦闘中に突如現代にタイムスリップ。元・ではなくまさに現役の軍人の立場から、靖国神社ほか太平洋戦争に関する様々な問題を検証するという内容。
戦後何度も問題視されている政治や宗教といった側面だけでなく、祀られている当事者ならばどう思うかという視点で語られるのが新鮮といえば新鮮です。「死んだら靖国で会おう」と言い合い、靖国で祀られることを本望として若い命を散らしていった戦争中の若者たち。今とではあまりに靖国に対する見方が変わってしまっているのですね。
戦後半世紀以上経っても延々と参拝するしないだの公人だの私人だので右往左往する日本(しかもうやむやにして先送りしてばかり)に、本来は祀られている者の口を借りて、著者の思いであろう意見を吐露しているのだと思います。


タイムスリップに関する現象については一切説明無いのはいいとしても、主人公が現代に来てからの展開にはやや強引なところがあったり、戦前の道徳感を美化しすぎたりと違和感は残ります。なので読む人にとっては全て同意できる内容ではないかもしれないです。
でもストレートに想いを口に出す主人公に対し複雑な胸中の公務員(自衛官含む)や遺族の気持ちも出して、死者を弔うという本来単純な行為がここまで複雑化していることの問題の本質を見せてくれます。そういった意味ではかつて学生ながら戦争に駆り出された主人公らと同世代の若い人にも読んでもらった方がいいかもしれないです。


「死んだら靖国で会おう」という男たちの誓いとは別に、遺された家族や恋人にとっては「死んだら自分たちのもとに還ってくるのだ」という台詞が印象に残りましたね。そういえば特攻に関する本を読んだ時も、隊員たちは国のためよりも愛する者を守るために往ったということでしたから。
詳しくは書きませんが、ラストの主人公の選択にはやはりそうなるだろうなという納得の顛末でした。