6期・20冊目 『七回死んだ男』

七回死んだ男 (講談社文庫)

七回死んだ男 (講談社文庫)

出版社/著者からの内容紹介
同一人物が連続死!恐るべき殺人の環
殺されるたび甦り、また殺される祖父を救おうと謎に挑む少年探偵

どうしても殺人が防げない!?不思議な時間の「反復落し穴」で、甦る度に、また殺されてしまう、渕上零治郎(ふちがみれいじろう)老人――。「落し穴」を唯一人認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためにあらゆる手を尽くす。孤軍奮闘の末、少年探偵が思いついた解決策とは!時空の不条理を核にした、本格長編パズラー。

主人公・久太郎は時間の反復落とし穴を持つ体質。それはランダムに選ばれた日を9回繰り返すことになるというもので、9回目の決定版を通るまでは何度も一日をやり直すことが可能。しかしその反復落とし穴にはまるタイミングは自分の意思では選べない。反復落とし穴を何度も経験したせいか、どこか達観して自ら「じじむさい」と自嘲する16歳なのです。
正月に親戚一同集った際に反復落とし穴が発動、久太郎がオリジナル周と違う行動を取ったところ、祖父が死んでしまう(しかも殺人の疑いが強い)というアクシデントが起こってしまっために、どうにかそれを防ごうと試みるのだけど、どうしても祖父は死んでしまうという困った状態に陥ってしまいます。*1
最初の犯人らしき長兄・従姉を遠ざけたと思えば、次の週には別の従姉が。なんとか3人を拘束したと思えば今度は叔母が。登場人物の中では最年少ではあっても、すでにその日を経験しているメリットを活かして主人公が健闘するのですが、そのたびに意外な人物が犯人になってしまう。まぁ遺産が絡むと人が変わるわけでして。
ではどうすれば防げるのか読む方も気になってしまうのです。


背景として、運よく事業に成功して莫大な財産を抱える渕上零治郎とその片腕の次女(未婚)、過去のいきさつから家を飛び出したものの、ともに旦那が失業同様で困窮し遺産目当てで近づいてきた長女・三女一家のそれぞれのわだかまりがあります(主人公は長女を母とする末っ子)。
鍵となるのは毎年書き換えられる遺言。跡継ぎとして、次女の養子に誰が指名されるかなのですが、身内だけでなく秘書や運転手も候補にあがっているのがややこしさを増していますね。
なぜか正月滞在中はみな色違いのトレーナーを強制的に着せらていたり、気になる設定もちらほら。
久太郎が失敗を続けていく間、そのあたりの事情も次第に明かされていきます。結果からすればその死の真相は単純ではありますが、最後には主人公には思いもよらない意外な事実が明かされます。その伏線はところどころに隠されていて、途中でおや?と思うこともありましたので種明かしとしては納得。
まぁ反復落とし穴の間、7回も死んでしまうのはちょっと強引な気がしなくもないですが、登場人物のキャラクター性も含めてあえて遺産争いをコメディっぽく描いているのでしょうね。
時間跳躍能力を巧妙にミステリに組み込ませてあり、繰り返される事件の様相も毎回違うパターンで描かれているので、飽きることなく主人公とともに謎解きを楽しめる作品です。

*1:祖父と酒盛りというオリジナル周と同じ行動を取ればいいのだが、激しい二日酔いを招くためにできればそれは避けたい