13期・5冊目 『アリスマ王の愛した魔物』

内容紹介

弱小なディメ王国の醜悪な第六王子アリスマは、その類まれなる計算能力によって頭角を現していくが――森羅万象を計算し尽くす夢に取り憑かれた王を描き、星雲賞を受賞した表題作、英語版アンソロジー初出の宇宙SF「ゴールデンブレッド」、なぜか自律運転車に乗せられる人型ロボット、アサカさんを通して、AIの権利を考察する書き下ろし「リグ・ライト――機械が愛する権利について」ほか全5篇を収録の最新作品集。

「ろーどそうるず」
バイクとしての人格とネットワーク機能が付いた近未来の二輪車と制御ユニット(実体は持たない仮想上のプロトタイプモデルらしい)との通信で綴られるストーリー。
いちいちお店に行かなくても、アップデートとか環境に応じた運転をしてくれるのが便利だなというのが第一印象。
とはいってもバイクは乗り手との関係が重要であり、何度かの変転を経て、機械ながらも揺れ動かされていく感情描写がとても秀逸。
なんだかんだ言って、パートナーは車に乗せるよりバイクのタンデムの方がロマンがあるよなぁと思ったり。

「ゴールデンブレッド」
辺境に不時着した若き宇宙戦闘機パイロット。墜落した際に村の食料庫を吹き飛ばしてしまった為に最悪の印象であったが、ある女性が進んで引き受けたことと、しばらく救助が望めないために進んで仕事を手伝うようになったことで、次第に村に受け入れられていく。
著者らしいボーイ・ミーツ・ガール宇宙SF短編。
ルーツは同じ日本らしいのに、宇宙への進出過程で真逆の性質を持ってしまった両者の対比が面白くてニヤニヤしてしまう。
古き日本の田園風景を宇宙コロニーで再現してしまうという設定もいい。
植民した小惑星で食べる正月の餅っていいですねぇ。


「アリスマ王の愛した魔物」
ある架空の大陸で、弱小国の第六王子アリスマは王族の中でも味噌っかす扱い。いつも孤独な彼は幼い頃から数えることに夢中になり、やがて算術に異様な才能を伸ばすことになる。
彼はその才能で攻めてきた国の軍を撃滅し、王を継ぐ。
そして国中のあらゆるものを徹底して計算し尽くし、無駄をなくし増税を断行して国を富ませ、領土を広げて大国へとのし上がっていく。
数字という魔物。それを愛し愛された帝王の一大叙事詩
もっとも、彼が唯一心を許した従者が最後まで謎に包まれていたのが心に残った。かの者は人であったのか、それとも人ならざる者であったのか?


「星のみなとのオペレーター」
片田舎の宇宙港オペレーターを務める女性。彼女にはごくたまに寄港する軍艦の若き艦長に想いを寄せていた。
ある日、輸送船の落し物と思しき不思議な三角コーンの物体を見つけてペット代わりにしていた。
その頃、人類は同時に星系外より何兆個という規模で飛来し、宇宙船や惑星から鉱物を採取するウニ型物体の対応に追われるようになる。
長編で読んでみたい気がした未知(ウニ)との遭遇。
危機一髪のところで助けにきたヒーロー。だけど、おいしいところは巨大化した三角コーンに奪われたり、異星人との交渉が一介のオペレーターに任されてしまうとか、ハードというよりコメディ要素が目立つかな。
ところで宇宙戦艦の主砲でぎりぎり人間に当てないように敵を駆除するのはちょっと無理があるかなぁと。


「リグ・ライト
亡くなった祖父の遺産の内、自動操縦型のセダンを受け取った主人公・四季美。
引取に行った時、運転席にはきれいな女性が乗っていた。なんと彼女はアンドロイドであり、完全自動運転に移行する前の特殊な型なので、彼女が乗らないと車が動かないのだという。
若い頃の祖母をモデルにしたというアンドロイドを引き取った主人公であったが、まるで本物の人間と会話しているように思えて戸惑ってしまう。
祖父の家政婦ではなく、愛人代わりかと思いきや、運転手だった!?
しかし実は彼女(アンドロイド)を想っていたのは同じAIであった!?
人間に奉仕する使命を持ちながら、感情を持ったAIに対する難しさ。
簡単に機械だと割り切れればいいのだけど、いざ目にするとほとんど人間と変わりない容姿に四季美が抱く複雑な感情は理解できます。
それに感情を持つことで行動も変わるのかというのが興味深い。
ただこれって、表面上はアンドロイドを含めた女性だけの三角関係というのがなんか微妙ですねぇ。