12期・27冊目 『僕を殺した女』

僕を殺した女 (新潮文庫)

僕を殺した女 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

篠井有一は、ある朝目覚めると女に変わっていた。しかも、時間は5年後にタイムスリップしている。ポケットには「ヒロヤマトモコ」という名のキャッシュカード。そしてついに、かつての自分と同じ顔をした、自称・篠井有一が現れた―一体、何が起きたのか?モザイクのように複雑に入り組んだ出来事は、やがて驚愕の全貌を明らかにする。幻のデビュー作にして最強の問題作。

朝目覚めると知らない部屋にいて、鏡を見ると目の前にいたのは妙齢の女性。
自分は篠井有一という大学生であったはずなのにいったい何が起こったのか?
持ち物を調べると、「ヒロヤマトモコ」という名のキャッシュカード。そして記憶のある日付より5年が経過していた。
更に別の寝室に若い男性が寝ていたことに気づいて、パニックに陥ってしまいます。
女性となった自分は彼とどういう関係にあるのか?
しかし、起きた男性(宗像久)は昨夜のことを覚えてなく、自分を無理やり連れ込んで襲ったのだと脅して当面の協力者にさせます。
調べていくと、篠井有一という男性はこの世界に別に存在しているのですが、5年前に記憶喪失に陥り、現在は姿をくらましているとのこと。
そして彼(篠井有一の自我があるヒロヤマトモコ)を見かけて追いかけてくる大橋恵美という女性の存在。
どうやら、ヒロヤマトモコは広山という男性と結婚して子供までおり、交通事故にあった広山を置いて逃亡したらしいのですが…。


性転換にタイムトラベル? 非常にやっかいな事情を抱えてしまった主人公。
精神的な疾患で入院している姉を始めとして複雑な篠井有一の家庭環境。会社経営していた親の遺産相続を巡って暗躍する怪しい男たち。偽物の登場によって揺すぶられるアイディンティティ。
読み進めていくほどに謎は深まり、なんだかわけがわからない状況になっていきます。
後半に入ってから怒涛の展開でヒロヤマトモコの過去が少しずつ明かされていったり、それぞれの人物の思惑や篠井有一/ヒロヤマトモコを利用しての企みがあったりと物語に惹きこまれていく部分もあります。
探し求めていた人物、意を決して面会した人物が死んでいたり(実は最後に死んでなかった、も有り)、主人公がわけもわからず逃げ惑い、襲われたり、事故に巻き込まれるなど大変な目に遭い、最後に長い独白はまさにサスペンスドラマ風といったところ。
次々に起こるアクシデントも含めて強引に引っ張られた感はあり、最終的には逆に醒めてしまいましたね。
いろいろと手を広げ過ぎたせいか、主人公はじめ”彼”に感情移入できませんでした。それはおそらく、主人公周りに好印象を抱ける人物がほぼ無く*1、自分のために他人や子供を利用しようとするおかしな人物ばかり集まってしまったせいでしょうか。
ラストは複雑すぎる事情を抱えた二人がいい雰囲気になって、ハッピーエンド気味で良かったといった感じです。

*1:例外は宗像久なんですが、どうにも情けないように見えるのと、途中で主人公視点から裏切り者っぽく見えてしまったし