10期・39冊目 『大聖堂(上)』

内容(「BOOK」データベースより)
いつかこの手で大聖堂を建てたい―果てしない夢を抱き、放浪を続ける建築職人のトム。やがて彼は、キングズブリッジ修道院分院長のフィリップと出会う。かつて隆盛を誇ったその大聖堂は、大掛かりな修復を必要としていた。折りしも、国王が逝去し、内乱の危機が!十二世紀のイングランドを舞台に、幾多の人々が華麗に織りなす波瀾万丈、壮大な物語。

渡り大工の親方であるトムは請け負っていた貴族の屋敷の建設中に突然のキャンセル(住む予定だった嫡男が婚約破棄された)によって職を失い、更に移動中に財産である豚を奪われ、どこに行っても仕事は見つからず、妊娠していた妻アグネスは出産後に死亡。赤子を育てるが叶わず手放すことになってしまいました。
そんな中で出会った森に住む女性エリンに心を奪われ、その息子共々旅することになったのですが、仕事が無いのは変わらず困窮していくばかり。
紆余曲折あって辿りついたのがキングズブリッジ修道院でした。
一方、戦争孤児として修道院に入って以降、純粋で真面目な修道士として研鑽していたフィリップは荒れた修道院分院の立て直しを見事に行った後にキングズブリッジ修道院を訪れるのですが、老齢で覇気の無い院長のもとでは風紀は緩み、幹部は懐を増やすことに精を出し、財政は赤字のままで塔が崩壊し古ぶれた大聖堂を修復するのもままならない状態でした。
そこで亡くなった院長の跡を継いで修道院の立て直しを決意するのですが、競争相手の副院長始め難題が立ちはだかるのでした。


12世紀のイングランドを舞台にした、大聖堂建設をめぐる歴史ドラマの大作です。
直接見たことはないけれど、日本と違って欧州では石造りが多いために数百年の時を超えて当時のまま現存しているの建築物が多いようですね。
欧州と言えば城が思い浮かびますけど、宗教的建築物も多いようで、修道院の大聖堂もその一つ。
ただ建築物一つ取っても、当時の人々がそれにいかに関わったか、複雑なドラマがあったと思われます。
上巻では登場人物たちがどのような背景を持ち、さまざまな事件や思惑をもって人間関係を構成していくさまをじっくりと描いていますね。


最初の主人公のトムは腕のいい石大工なのですが、駆け出しの頃に参加した大聖堂の建設をこの手で一から手がけてみたい夢に駆られて一か所に落ち着かず、各地に仕事を求めて旅する日々。
男として夢を持つのはいいのですが、14歳で仕事を手伝う長男アルフレッドを筆頭にまだ幼い娘のマーサ、更に奥さんは妊娠中。具合の悪いことに仕事にあぶれて泊まるところも無ければ食費に困り、仕事道具を売り払うことに。不運が重なったこともありますが、父親としてどうよ?って気がしないでもありません。
家族への愛情や信仰心もそれなりにあるようなのですが、奥さんの死の直後にエリンに一目惚れして旅するようになってから毎晩イチャイチャ。いい大人がなんだかなぁと。
まぁそんな彼でも技術的には確かなものを持っているのですが、なかなか報われなくて可哀想です。いやもっと可哀想なのは幼い子供(マーサやエリンの息子ジャック)だと思いますがね。


そしてもう一人の主人公が修道士フィリップ。子供の時に父母を惨殺されるという悲惨な目に遭いますが、良き師に出会い、清廉かつ有能な修道士として成長します。
若さゆえに直情的な面もありますが、大聖堂建設を目指してどんな困難にも負けずに不屈の精神で奮闘する様はわくわくしますね。ただ敵が多すぎるので前途多難に思えます。
他にも冒頭登場の若い女性と同一人物と思われるエリン*1や伯爵令嬢の身から転落しつつも懸命に生きるアリエスなど女性陣の今後も気になります。
上巻だけでも人間関係が複雑に入り組んでいていることがわかる上にイングランド王国ノルマン朝からプランタジネット朝への移行期で混乱があるのでしょう。
そういった激動の時代に大聖堂を巡ってどのように揺れ、建設へと成るか目が離せません。

*1:処刑された夫?に関連していろいろ事情がありそう