10期・38冊目 『虚像の道化師 ガリレオ7』

虚像の道化師 (文春文庫)

虚像の道化師 (文春文庫)

内容紹介
東野圭吾の代表作、「ガリレオシリーズ」の最新短編集。
ビル5階にある新興宗教の道場から、信者の男が転落死した。その場にいた者たちは、男が何かから逃れるように勝手に窓から飛び降りたと証言し、教祖は相手に指一本触れないものの、自分が強い念を送って男を落としてしまったと自首してきた。教祖の“念”は本物なのか? 湯川は教団に赴きからくりを見破る(「幻惑(まどわ)す」)。突然暴れだした男を取り押さえようとして草薙が刺された。逮捕された男は幻聴のせいだと供述した。そして男が勤める会社では、ノイローゼ気味だった部長が少し前に自殺し、また幻聴に悩む女子社員もいた。幻聴の正体は――(「心聴(きこえ)る」)。大学時代の友人の結婚式のために、山中のリゾートホテルにやって来た湯川と草薙。その日は天候が荒れて道が崩れ、麓の町との行き来が出来なくなる。ところがホテルからさらに奥に行った別荘で、夫婦が殺されていると通報が入る。草薙は現場に入るが、草薙が撮影した現場写真を見た湯川は、事件のおかしな点に気づく(「偽装(よそお)う」)。劇団の演出家が殺された。凶器は芝居で使う予定だったナイフ。だが劇団の関係者にはみなアリバイがあった。湯川は、残された凶器の不可解さに着目する(「演技(えんじ)る」)。
読み応え充分の4作を収録。湯川のクールでスマートな推理が光る、ガリレオ短編集第4弾。

「幻惑(まどわ)す」
新興法人「クアイの会」の道場のあるビル5階から幹部が転落死する事件が起こった。
そこでは週刊誌記者による取材の際、教祖が強い念を送ったところ、相手が驚き飛び降りてしまったという。教祖の言う念の力は本物なのだろうか?


「心聴(きこえ)る」
幻聴のせいで発作的に攻撃的になり、暴力をふるってしまったサラリーマン。
そして、ほぼ決まった時間に起こる耳鳴りに悩むOL。
実は同じ会社であることがわかり、なんらかの原因があるのではないか・・・。


「偽装(よそお)う」
大学時代の友人の結婚式のために、山中のリゾートホテルにやって来た湯川と草薙。
式の直後に近くで殺人事件があったとの知らせがあり、天気が荒れた為に道路が通行止めとなって地元の県警が呼べないため、急きょ草薙が現場を見ることに。
一見、老夫婦が襲われたように見えたが、その写真を見た湯川が不審な点に気づく。


「演技(えんじ)る」
劇団の演出家が殺された。凶器は芝居で使う予定だったナイフ。
被害者の元恋人が犯人として疑われるも、残された携帯電話の履歴上はアリバイがあるように思えるが、トリックがある可能性も捨てきれない。
そこで湯川は携帯電話に残された写真に注目して調べ始める。


もともとネタが尽きた関係で『ガリレオの苦悩』でシリーズを終わらせようと思っていた著者が新たに、「相手に触れずに転落死させる方法」のアイデアが浮かび上がり、そのトリックを描きたいという想いから収録作「幻惑(まどわ)す」を執筆。それに3作を加えた連作短編集として生まれたとのことです。
警察の捜査で解明できない不可思議な謎を科学的なアプローチで解明するという手法で、その内容は相変わらず楽しませてくれます。
ただ、存在しない架空の装置を出す(「心聴(きこえ)る」)などネタ的には犯人の仕組んだトリックを徹底した検証で暴くという初期のミステリ要素は薄れてしまっている感はありますね。
逆に犯行に隠された背景を炙り出して、犯人の隠された想いを汲み取るなど人情味が深まっているところが如何にもドラマ原作という印象を受けました。
それはそれでいいという人もいるのでしょうけど、ガリレオシリーズとしてはやや物足りないかなという気がします。