5期・13冊目 『笑う警官』

笑う警官 (ハルキ文庫)

笑う警官 (ハルキ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見された。遺体の女性は北海道警察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明。容疑者となった交際相手は、同じ本部に所属する津久井巡査部長だった。やがて津久井に対する射殺命令がでてしまう。捜査から外された所轄署の佐伯警部補は、かつて、おとり捜査で組んだことのある津久井の潔白を証明するために有志たちとともに、極秘裡に捜査を始めたのだったが…。北海道道警を舞台に描く警察小説の金字塔、「うたう警官」の文庫化。

組織の面子のために濡れ衣を着せられた上に射殺される運命にある元・相棒を守るべく立ち上がった警察官たち。残された時間はわずか一晩のみ。
現実にあった裏金作り事件をヒントに、外は道庁とマスコミの追及に晒され、内は大規模な人事異動で揺れ動く警察組織のデテール描写もさることながら、限られた手段と仲間の内通を疑いながらも真相に迫る主人公たちの闘いが熱い物語です。


殺人現場から、門外漢には気づくこともない細かい手がかりから何があったかを見抜き、真相を追及していく様はベテラン刑事ならでは経験が活きます。
その一方で、人間関係から本当の容疑者を割り出していくのは、男性刑事よりも内部事情に詳しい女性警察官の伝手と勘によるところがとてもユニークでした。
苦労の末に真犯人に辿りつき、佐伯らの影の任務も終えたと思いきや、射殺命令は取り消されず、このままでは津久井の無事も保証できない。そこで警官らが待ち構える道庁へいかにして送り届けるかのスリリングな展開が最後に待っています。


キャリアと叩き上げ、老若男女と数多くの警官が登場し、道警本部に対する不満や職務に関する考え方などいろいろ書かれてはいるものの、人間像としてはややあっさり。それと後半は慌しく話が終わった感がありますが、個人的に好きな作家だけあって、最後まで外すことなく面白いストーリーとして仕上がっていると思いますね。


ところで、解説にはタイトル改変の経緯(言い訳?)が書かれていますが、これは元の『うたう警官』の方が内容にも合っていていいと思いますよ。「うたう」というのが一部の言い回しでわかりづらいなんて読者を見くびりすぎじゃないですかね。どこが「笑う」なのか疑問が残ります。あえて言えば大規模な人事異動で苦労する現場警察官たちの自嘲的な笑いでしょうかね。