9期・75冊目 『慟哭』

慟哭 (創元推理文庫)

慟哭 (創元推理文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
連続する幼女誘拐事件の捜査は行きづまり、捜査一課長は世論と警察内部の批判をうけて懊悩する。異例の昇進をした若手キャリアの課長をめぐり、警察内に不協和音が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心をよせる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ!幼女殺人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切な叫びを、鮮やかな構成と筆力で描破した本格長編。

まるで捜査本部を翻弄するように連続して発生した幼女殺人事件。
キャリアのエリートとして指揮を執る佐伯捜査一課長や聞き込みなどに奔走する部下たちは進展の無い状況と世論の批判に晒されて焦りはつのるばかり。
一方、胸にぽっかりと穴が開いたような虚しさを抱く「彼」はそれを埋めてくれるものを求めて次第にある新興宗教にのめりこんでゆく。
二つのパートが交互に進むストーリーであり、ある時点で「彼」(松本と名が明かされる)の大きな喪失感は以前娘を亡くしたことから来ていることがわかります。
教団の秘密儀式に参加したことで、彼はその秘法を得て娘を生き返らせることに傾倒していきます。
しかも、本来は人形を使うところを彼はより実現性を深めるため、同じような年頃でカバラの計算で同じ四のデジタルルートの名を持つ女の子を憑代として使うことに…。


前半は警察内部の複雑な事情が淡々と描かれ、一方で出口の見えない袋小路に入り込んだような「彼」の心情が伝わってくる重苦しい日常。
別の独立した話かと思いきや、途中で事件に関連づけられるようになってからが怒涛の展開でした。
そしてラストで明かされる「彼」の正体。まぁ事件が進むに連れてなんとなく勘付いてしまってはいたのですが。
そこにいくまでの描写と構成は巧いなと思いました。これがデビュー作とは思えないくらいに読ませるものがあります。
ただ結末が尻切れトンボなのはいただけません。
子供が誘拐され殺されるというむごたらしい事件を取り上げただけに、せめてしっかり解決させて欲しかったと思ったものです。


あと本筋とはあまり関係ないですが、連絡をするために公衆電話を探したり、警察のキャリアとノンキャリアの対立やら弊害が取り沙汰されたり、新興宗教団体が急激に人を集めたりする所が90年代を象徴していて懐かしく思いましたね。