4期・84冊目 『鳥人計画』

鳥人計画 (新潮文庫)

鳥人計画 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
鳥人」として名を馳せ、日本ジャンプ界を担うエース・楡井が毒殺された。捜査が難航する中、警察に届いた一通の手紙。それは楡井のコーチ・峰岸が犯人であることを告げる「密告状」だった。警察に逮捕された峰岸は、留置場の中で推理する。「計画は完璧だった。警察は完全に欺いたつもりだったのに。俺を密告したのは誰なんだ?」警察の捜査と峰岸の推理が進むうちに、恐るべき「計画」の存在が浮かび上がる…。精緻極まる伏線、二転三転する物語。犯人が「密告者=探偵」を推理する、東野ミステリの傑作。

このミステリ作品の特殊な点として、犯人は当初から明かされているのだけど、その動機と密告者の謎―完璧と思われた計画をなぜ見破ったのか?―を最後まで探っていくという展開であること。それとオリンピック競技でありながら一般的にはあまり詳しく知られていないスキージャンプという競技について、それに関わる競技者・コーチ・科学者の視点から内実が詳しく書かれていて、事件の経過と同時に素人としても理解しやすかったということですね。
やはり素人が思いつくだけあって「完璧な計画」もところどころ穴があったり、事件に関わる人物の印象が拡散しすぎて前半はちょっと退屈に思えたりするのですけど、主題としては、スポーツ・トレーニングに対する科学技術の導入、そして人間性の問題があって、後半に行くほどより味わい深く描写されていきます。


全く素人考えですが、いまやプロ野球を始めとするスポーツにはコンピュータによるデータの蓄積と活用は欠かせないと思うのですね。アマチュア・スポーツでは昔ながらの精神論が残っているかもしれないけど、ビジネスが絡むプロでは勝つ為の技術は日進月歩の如く進んでいることでしょう。
しかし、この作品が書かれた90年頃はまだ科学的な理論に基づくトレーニングが完全に受け入れられていなかったという時代背景があるようです。
それが一度ジャンプ界を追放された後にとある計画をもって復帰した杉江の妄執に象徴されていますね。*1
結局、終盤になって杉江の計画があらわにされ、それまでの伏線も収束されていく。読者の予想を良い意味で裏切るストーリーの巧さはさすが東野圭吾と言うべきですね。

*1:己の野望のために子を道具扱いというのは歴史ものだはよく見られるけど、現代でも結構あったり