3期・36冊目 『さまよう刃』

さまよう刃 (角川文庫)

さまよう刃 (角川文庫)

出版社 / 著者からの内容紹介
自分の子供が殺されたら、あなたは復讐しますか?
長峰重樹の娘、絵摩の死体が荒川の下流で発見される。犯人を告げる一本の密告電話が長峰の元に入った。それを聞いた長峰は半信半疑のまま、娘の復讐に動き出す――。遺族の復讐と少年犯罪をテーマにした問題作。

ややテーマは違うものの、妻子を殺された男が銃を所持して加害者の少年を追いつめるという点で宮部みゆき『スナーク狩り』を思い出しました。宮部みゆきは他にも犯罪における被害者視点の作品は多いものの、わりとドライに描かれているように思えつつ後から何とも言えない余韻を感じるのに対して、東野圭吾は直接情に訴える部分が多いように思えます。後から考えれば不自然な設定もありますが、読中は勢いというか先が気になってしまうことが多いんですよね。


法治国家において復讐は非常識であり、司法に委ねるべきだというのは当たり前の意見としても、作中のとある父親が「子供が殺されたら?」という問いに対して「犯人をぶっ殺す」と即答したように感情はまた別もの。作品のなかで主人公・長峰はいくつかの故意と偶然のきっかけで加害者少年の一人を殺すことになってしまい、わずかな手がかりをもとに残る一人を追っていくのです。
妻を亡くし唯一の家族であると同時に最愛の一人娘をむごい仕打ちで失った長峰の悲哀と怒りはストレートに伝わってくるし、犯人を追いながら復讐心と罪悪感で揺れる心中もまた自然に描かれています。


たとえ殺人を犯そうとも18歳未満であれば、よほどのことがなければ刑に服すことなく、ましてアルコールや薬物で心身が不安定な状態であれば不起訴もありえる、という加害者ばかり考慮して、被害者および遺族の感情を慮らない少年犯罪に対する司法制度。*1当事者だけでなく、少年と長峰を追う立場の刑事一人一人の職業の使命に対する苦悩として現われています。*2
同じ少年たちの被害に遭った少女の父親、実質放置していたのに子供と我が身ばかり可愛い親、被害者感情を企画のネタとしてしか扱わないマスコミ・・・。そういった様々な要素が他の作品にも増して、読者の感情を引く内容だったなと思いますね。


最後はこうするしか無かったのかという悲しいラスト。ひょんなことで長峰に関わった女性・和歌子*3の行動が大きな鍵となります。長峰に新しい人生を開かせるはずだったのに、彼女は辛い思いを抱えることになったのではないかと思うのです。

*1:現在は風向きが変わってきましたが

*2:それに関係して、最後にちょっとしたトリックが

*3:この人も幼い息子を亡くした過去があるせいか、長峰に共感する部分がある模様