4期・78冊目 『硝子のハンマー』

硝子のハンマー (角川文庫)

硝子のハンマー (角川文庫)

日曜の昼下がり、株式上場を目前に、出社を余儀なくされた介護会社の役員たち。エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、有人のフロア。厳重なセキュリティ網を破り、自室で社長は撲殺された。凶器は。殺害方法は。すべてが不明のまま、逮捕されたのは、続き扉の向こうで仮眠をとっていた専務・久永だった。青砥純子は、弁護を担当することになった久永の無実を信じ、密室の謎を解くべく、防犯コンサルタント榎本径の許を訪れるが―。

密室で起こった社長殺害事件。たまたま近くにいたというだけで疑われた専務。株式上場や後継を巡って内紛が垣間見える社内事情。
この謎に挑むは被疑者の弁護士・青砥純子と依頼された防犯コンサルタント・榎本径のコンビ。この榎本が裏稼業として本格的に泥棒をやっているんじゃないかというくらい胡散臭い人物*1なんですが、最近の防犯事情も含めてセキュリティに挑んでいく様はとてもユニークですね。
第一部は、被疑者の家族に依頼され、他にセキュリティシステムをくぐっての殺害可能な方法があるか様々な面から検証していくもので、きわめてテクニカルな内容となっています。エアダクトを利用したり監視カメラを欺くといったありふれたアイデアだけでなく、介護ロボットをハッキングするなど斬新なアイデアが出るものの、すぐに却下されていくあたりはスピーディで飽きさせないですね。中盤にしていよいよ謎解きも大詰めかと思われたところで中断。


転じて第二部はある没落地主の息子が借金取りのヤクザから逃げるため、過去を消して別人に成りすますところから始まります。
彼が東京に出てきて仕事を転々とし、現在は事件の舞台となったロクセンビルのメンテナンス(外窓清掃)をしていることでようやく前半と結びつくわけです。
再び借金取りに追い回されるかもしれない不安な毎日を打開するために大金を得たいと思っていた頃、偶然窓の外から見かけたのが社長室のダイヤモンド。そこからビルメンテナンスに従事している点を生かして、いかに怪しまれずに侵入して宝石を奪うかを練るわけです。
そこまではいいのですが、自分が疑われるのを恐れる余りに口封じのために殺人まで企画してしまうのは強引すぎますよね。銀行の金庫などではなく社長室にて密かに保管しているあたりでそれが不法に入手したものと推測でき、警察からの追及は考えにくいものですし。まぁそのへんを突き詰めていったら物語は成立しませんが。


以前の仕事で得た硝子知識によって密室を破る犯行を考え付くのはうまいと思いましたが、それ以外は主にネットで仕入れた知識だったり偶然に左右される点もあって綱渡りな感じもしないではないです。
そういった点を含めても読者をぐいぐい引っ張っていくストーリー展開はさすがと言えますね。
決着がついた後、青砥純子が弁護を引き受け、真っ当な更正をさせようとしたエピローグが良かったです。

*1:しかし決して殺人は犯さないというポリシーを持っているのが結末に影響する