- 作者: 岡嶋二人,西澤保彦
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/06/15
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
末期ガンに冒された男が、病床で綴った手記を遺して生涯を終えた。そこには八年前、息子をさらわれた時の記憶が書かれていた。そして十二年後、かつての事件に端を発する新たな誘拐が行われる。その犯行はコンピュータによって制御され、前代未聞の完全犯罪が幕を開ける。第十回吉川英治文学新人賞受賞作。
最初は手記による回想から始まるやや長めのプロローグ部分。最初は本人の若い頃の仕事の回顧や家族の話題が続いてほのぼのした雰囲気だったのが、ある誘拐事件に至って一転緊迫度が高まってつい引き込まれてしまいます。
警察は犯人の要求に振り回されるままで、結局父親の人生をかけた5千万を奪われてしまい、犯人は捕まえられず。人質は無事還ってくるのですが、その手記の最後はおそらく犯人の目星らしき記述が塗りつぶしてあるのが思わせぶりなところ。
それから12年後、人質であった少年も成人し、かつて父親が興した会社を吸収した有名メーカーに勤めているところから新たな事件が起こります。
それは、人質に会うことも触れることさえせずに誘拐し、有名メーカー社長でもあるその祖父に身代金を要求する。
はっきり言って、おおよその手口が明かされている上に犯人の視点から進めているために謎解きという観点はほとんど無いのですが、過去の誘拐事件の関係者*1が関わっていて、かつての事件の全容が徐々に明かされていくことで犯行の動機がわかってくる仕組みが面白いです。
誘拐と犯人からの連絡そして身代金の授受方法といったトリックを施す部分については、1980年代のハイテク技術が駆使されていて、現代からすれば古びている箇所は否めないものの、誘拐事件の盲点を巧みについていて感心させられますね。無論、少しでもコンピュータに携わっている人間からすれば、気象条件や偶然または人為的な要因にまったく影響されずに万事上手くいくことなど考えられないし、あえてこれだけの犯罪を一人で最後まで行う必要があるのかという疑問も抱きますが、そこはまぁフィクションということで細部にこだわるのは野暮なことかもしれません。むしろ犯人がこの事件にこめた想いを汲み取らないと最後まで楽しめないような気がします。
*1:人質の少年とその父親の部下であり、事件当時金の輸送に同行した人物で実は・・・