3期・70冊目 『壊れるもの』

壊れるもの (幻冬舎文庫)

壊れるもの (幻冬舎文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
大手百貨店の課長職、妻と娘との家族三人暮らし、四十歳をすぎて手に入れた郊外の一軒家。大きな不満はない。ごく一般的な、ささやかな幸せ。しかし、そんなありふれた日常に生じた一点の染みが、突如、絶望の底なし沼となって男を呑み込んでいく。

著者の得意分野なのでしょうか、真面目に仕事をこなしながらも人間関係を始めとする様々な軋轢に悩む中間管理職の悲哀をリアルに描ききっているのが際立っていますね。そして仕事一辺倒の男が知らぬ間に家庭で孤立してしまう、なんて設定はよく見ますし誰が悪いとは一概に言えないですがどうにもやりきれないですね。この主人公が受けた仕打ちを思うと。
結果的に言うと、サラリーマン・家族持ちとしては、とことん鬱になる展開ですよこれは。社会的にも家庭的にもそこそこ恵まれていたはずが、ちょっとした躓きによってあれよあれよという間に奈落の底に落ちていく様が、怖さは感じないけれど救いが無くて辛いですね。


あえて注文を出せば、主人公のマイホーム裏手にある山*1を含めた一帯が古老に「イミチ」(忌み地?)と言われる所以、その山で起こった不可解な現象など、ホラー的なネタを出しておきながらいまひとつ使い方がもったいなかったかなぁと思いました。
まぁ悪夢の中を彷徨うようなラストは結構いいと思いますけどね。

*1:作品内では、「穢山」が転じて「玖我山」という