3期・48冊目 『サンマイ崩れ』

サンマイ崩れ (角川ホラー文庫)

サンマイ崩れ (角川ホラー文庫)

内容紹介
熊野本宮に近い山村が大水害で多くの死傷者を出したと聞き、僕は精神科の病院を抜け出した。奇妙な消防団員二人と老人とともに熊野古道を進み、崖崩れで崩壊した隣村の墓地にたどりついた僕が見たものとは?

『サンマイ崩れ』
日本ホラー小説大賞短編賞作品だということですが、まぁさほど期待せずに読んでみたら、短編と言えどじっくりした書き込みがされていてたちまち引き込まれました。例えば主人公の持つ病癖が、まったく知らない者にも実感できるように書かれているし、同行者である穏和な紳士の案内人、口は悪いがやることはやる消防団員の二人(アキやんとまっちゃん)の人物描写もいい。主人公が被災地に訪れた時に接する人々の態度やアキやんの不審な視線が、途中まで彼自身の態度に帰するのかと思わせておいて、実は最後に繋がる伏線となってる。
そして新鮮ではないけれど納得のラスト。怖いというよりはほっとする感じもしました。


『ウスサマ明王
収録されている長編に近い中編。
明治時代の困窮した一家が辿る運命と、現代における未確認生体(ユーマル)と特殊部隊との戦いが交互に展開されていき、最後に鍵を握る人物同士の交差や過去の凄惨な事件が明らかにされるわけです。
もっと長い話にして深く掘り下げて読ませてもいいくらいの素材ですけど、かえってこれくらいの方がだれなくて読みやすいかな。


【以下、微妙にネタバレあり】
話の中ではウスサマ明王使徒である鬼カッコウ(が憑依した人間)が百年に渡って周期的に人間を襲うのだけど、犠牲者は体がゆっくりと腐っていきながらも死ねずにいる様が他のゾンビ物と比べてもかなり不気味。
一番の見どころは農民たちに皆殺しに遭った一家の母親が呪をかける場面でしょうか。身を焼く炎に包まれながら「汝ら、逃さぬ」「子々孫々に至るまで、決して逃さぬ」と指弾する様はまさに明王の化身のような凄まじさであり、読んでいるこちらの身が熱くなるほど圧倒されました。
だけどその母親を通じて思うのは怖さより悲しみです。*1明治維新前後の会津の人々が辿った悲惨な過去も伝わってくる。それだけに最後まで鬼カッコウの化け物と戦い続けた藤堂巡査長の生還が何よりも嬉しかったです。

*1:日本の佳作ホラーって結末が泣ける話も多いですよね。