3期・47冊目 『覗き小平次』

覘き小平次 (角川文庫)

覘き小平次 (角川文庫)

出版社 / 著者からの内容紹介
死んだように生きる幽霊役者と、生き乍ら死を望む女。小平次とお塚は押入襖の隙間からの目筋とこの上ない嫌悪とで繋がり続ける山東京伝の名作怪談を現代に甦らせた山本周五郎賞受賞作。

嗤う伊右衛門』に続く古典改作2作目。
俗世間との関わりをさけ、己の存在の希薄さのみ願い、お塚というつれあいがいながらも襖の中からただ覗くだけ。役者でありながら全く自己主張できない廃者(すたりもの)だが、幽霊を演じた時だけ観たものを恐怖に震わせるほどの名人ぶりをみせる小平次の異様さをまず感じます。
何を問うてもまったく反応の無い小平次は、存在感の無さに反してその視線が全てを物語るのですが、それをどう感じるかは人によって違う。一緒に住みながら露骨に苛立ち嫌うお塚、表面上は親しく接していても内心は激しく嫌う多九郎、幽霊演技に敬意を表するものの徐々に妬みを抱き、亡き父の姿を重ね合わせて戸惑う女形の歌仙、今まで人を斬ることに何も感じなかったのに初めてその存在に恐怖を覚えた浪人・運平・・・。


章が進むと彼らの過去が明らかにされ、感情の深いところがあらわになってゆく巧妙な展開です。まぁくどいっちゃくどいですけど、ここまで登場人物のそれぞれの心理(主に負の)を表現できるのもすごいですね。
結局、死んだように生きている小平次は、全てに対して為すがままに過ごしているにすぎないのに、彼に関わる人物たちが傷つけ嘆き憎しみ合った結果、幽霊小平次という像を作り上げていった感がありました。
嗤う伊右衛門』の伊右衛門とお岩もそうでしたが、今回の男女間の愛情表現も一筋縄じゃないです。覗く小平次と最後まで嫌い通すお塚。いびつでありながらどこかストイックさも感じて不思議です。