3期・44冊目 『夜にその名を呼べば』

夜にその名を呼べば (ハヤカワ文庫JA)

夜にその名を呼べば (ハヤカワ文庫JA)

内容紹介
1986年10月、ベルリン。欧亜交易現地駐在員の神崎は何者かに襲撃された。親会社の共産圏への不正輸出が発覚、証拠湮滅を図る上層部の指令で命を狙われたのだ。殺人の濡れ衣まで着せられた神崎は壁を越えて東側へと亡命、そのまま消息を絶つ――それから五年、事件の関係者に謎の手紙が届けられ、神崎を追う公安警察もその情報を掴む。全員が雨の小樽へと招き寄せられたとき、ついに凄絶な復讐劇の幕が切って落とされた!

東西冷戦期を舞台にしたスパイや殺し屋が暗躍するサスペンス。いやぁ、懐かしいですねぇ。*1
ちょっと毛色が違うのは共産圏への貿易に携わるビジネスマンの神崎哲夫がココム違反の責任と殺人の罪を負わされた上に命まで狙われ東側に亡命、そして5年の月日を経て復讐劇へと展開すること。
すっかりスパイに仕立て上げられた神崎が帰国することを狙って群がる警察とマスコミ、そして陰謀の当事者である会社の人間、唯一無実を信じる母親(神崎敏子)とただ真実を知ることを願う殺された上司の娘(西田早紀)。様々な立場の人々を一挙に小樽に集めて神崎はどうするつもりなのか?


結論から言えば、途中まですごくそそる展開ではあったものの、最後はあっけなくて、期待が膨らんだ分物足りなかったです。関係者が消えていく中で、真犯人の目星はついてしまうし。
そもそも、初っ端で会社の不祥事をもみ消すためにとは言え、一幹部の判断で社員をプロの殺し屋に始末させる理由づけが乏しく感じたのですが。


むしろこの作品での特徴はベルリンや小樽における叙情的な描写と、企業戦士と呼ばれてその身をひたすら仕事に捧げた男たち(とその家族)の悲哀でしょうか。
神崎敏子と西田早紀は本来結びつかない立場*2でありながら、夫を、父をいわば仕事のせいで失ったことと神崎哲夫の良い面を知るという共通項によって、まるで母子のような仲の良い関係になるが最後は・・・。
神崎哲夫を追う刑事はただ職務に熱心であっただけなのに殺されてしまう(読者からすれば、彼らは殺されても仕方ないくらい醜い人間でもあるのですが)。
そして亡命後の神崎哲夫はどうなったのかを最後になって知り、結局救いの無い結末でありましたねぇ。


蛇足ながら、ベルリンで命を狙われた神崎哲夫は、地元のヒッピーな若者たちに助けられるのですが、そのうちの一人は壁書き専門のアーティスト志望の青年。出会いの時に壁の絵に価値などつくものかという会話があって、それが後々のベルリンの壁崩壊時のエピソードの伏線かと推測したのだけど、別にそんなことは無かったのが残念。

*1:佐々木譲第二次世界大戦を舞台にした3部作も面白かったなぁ

*2:作られた事実によれば、加害者の母親と被害者の娘