2期・71冊目 『贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き』

贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き (光文社文庫)

贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き (光文社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
海外のホラー小説の古典、有名作品を中心に、宮部みゆきがセレクトした15編は、名作ぞろい。身体の芯から震え上がる恐怖の時間をどうぞご体験あれ。

「身体の芯から震え上がる恐怖」というにはちょっとオーバーだけど、読み終わってからジワジワと物語の持つ怖さが来たり、子供の頃の感覚を思い出されて懐かしく思ったり、オチにニヤリとさせられたりと、様々なタイプの秀逸短編が収められています。
海外文学に疎い私は目次の一覧を見た時点ではほとんど憶えが無かったのですけど、いざ読み始めると、どこかで目にしたような記憶があったり、または他の作品にモチーフが使われていたような心当たりがあったり。ホラー小説の古典だけに知らず知らずに触れているのでしょうね。
宮部みゆきの紹介がまたホントにわくわくさせてくれる味のある文章なんです。ネタばれもあることはあるけど、あんまり気になりません。
しかもホラー小説を読みたくなる心理をうまく表現しているなぁと思ったりしました。


テーマ毎に3作集めた構成となっていて、その中でも特に印象に残ったのがこちら。

第一章 知りたがるから怖くなる

  • W・W・ジェイコブズ「猿の手

3つの願いを叶えるという「猿の手」。この3つの願いというモチーフ自体が多くの物語にも使われていそうです。
ちょっとした欲というか好奇心を出したばかりに不幸な目にあってしまうという、どちらかというと説話的な感じもしますね。
昔、私が読んだ話ではもっと露骨に恐ろしげな描写もあった気がしましたが、いずれにせよ願いの代償は大きすぎるものでした。

  • デイヴィッド・マレル「オレンジは苦悩、ブルーは狂気」

晩年の急激な創作の末に自らの目を突き刺して死んだ天才画家の生涯を追う内に、画家と同じ狂気に取り付かれて同じ最後を遂げる。まさにミイラ取りがミイラになってしまうストーリー。
刺激的ではないけれど幸福と安定が約束された将来を捨てて、謎を追う主人公に目が離せません。
そして真実と引き換えに主人公が得たものは・・・。
謎証しという面でも秀逸。

第二章 狼なんて怖くない?

美しい娘に心を奪われて、実は人狼との誓いをしてしまったばかりに悲惨な運命を辿るやもめの男と子供達の話。こちらも日本の怪談でも似たような話を読んだ気がします。
再婚相手の若い妻が夜な夜な墓を掘り起こして死体を漁るシーンなどゾワーっと来ます。可哀想なのが子供たち。最後まで救いがありません。

第三章 怖がることと、笑うこと

  • ジョー・R・ランズデール「デトロイトにゆかりのない車」

怖いというよりは老夫婦と死神とのやり取りにほのぼのする物語。オチの会話が好きです。自分が老人になる頃には死神は何に乗ってくるのだろう?

第四章 子供たちは恐怖と仲良し

大人にとってはただの暗い夜道の木々や人気の無い建物であっても、子供にとっては魔物が棲み、油断すると連れ去られてしまう場所である。そんな子供だけが知ってる恐怖をかつて自分も感じていたことを思い出すことができました。


第五章 生者の恐怖と悲しみと

ディストピア小説といえばフィリップ・K・ディック*1。短中篇も優れた作品があるとか。こちらもやはり東西冷戦期の影響が強いのがわかります。
兵器として生み出されたロボットが恐ろしい進化を遂げ、人類の脅威となる。これもSFではあるもののホラーというか世紀末的なストーリーです。まぁ後半は展開が予想できてしまうのですが。

*1:わたしゃまだ2冊しか読んでませんが