2期・70冊目 『蒼いくちづけ』

蒼いくちづけ (ハヤカワ文庫JA)

蒼いくちづけ (ハヤカワ文庫JA)

内容(「BOOK」データベースより)
精神感応者と普通人が共存する月開発記念市。テレパスの少女ルシアは信じていた恋人に裏切られ、命を落とそうとしていた。男は、他者の脳内感応細胞を奪いながら逃亡を続ける犯罪者だった。やがて彼女は脳死を迎えるが、体内に残存した憎悪の念は、周囲に災厄をもたらしはじめる。いっぽう遙か地球では、その強烈な念により危地を救われた男がいた―無限心理警察刑事OZは月へ向かう、ルシアの魂を救済するために…。

別にタイトルや幻想的な表紙に惹かれたとかじゃなくて、「精神感応者と普通人が共存する」という設定とテレパス同士の共感と対立をどう描くのが気になったりしたものです。
テレパス(テレパシー能力)とは、普通人に対しては心理的に優位に立ち、コミュニケーションに特化した能力であるものの、いざ敵対するものに対しては他の超能力と比べれば受動的なイメージでしたね。また、読心そのものも全ての情報を受け入れていては神経が持たないのでコントロールが難しい。*1


しかし作品内においてテレパスは、その能力を駆使して人の精神をコントロールし、時には死に追いやることも可能だという。そんなテレパス犯罪者を取り締まる無限心理警察刑事が主人公となるわけです。
テレパス同士による戦いの模様は、心の弱い部分に対するプレッシャーとブロックとの戦いでもあり、派手ではないもののスリリングな展開を見せてくれます。
そして日常においても、テレパスが多く医療などに従事しているのが面白いです。2、3000人に1人の確率と言えど、やっぱり普通人はやりにくいだろうなぁ。


ストーリーとしては謎解き風に始まり、犯人の悪辣さや事件の異様さが徐々に明かされるので、先が気になってしまう展開。ルシアが残した強い憎悪の念が、OZのまさに命がけの行動によって救済されるラストもいい感じ。
OZだけでなく、テレパスの女性刑事や検死官、黒人で普通人のベテラン刑事もそれぞれ魅力あって、この作品のみで終わらせるのは何だかもったいないですね。逆に言うと、OZに関してはもっと人物を書いてくれてもよかった。あえて彼を特別扱いしていない感じがされます。

*1:そのへんは筒井康隆七瀬シリーズによる影響