2期・40冊目 『ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編』

ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編 (新潮文庫)

ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
トッドは明るい性格の頭の良い高校生だった。ある日、古い印刷物で見たことのあるナチ戦犯の顔を街で見つけた。昔話を聞くため老人に近づいたトッドの人生は、それから大きく狂い…。不気味な2人の交遊を描く「ゴールデンボーイ」。30年かかってついに脱獄に成功した男の話「刑務所のリタ・ヘイワース」の2編を収録する。キング中毒の方、及びその志願者たちに贈る、推薦の1冊。

いわゆるホラーという枠には単純には括れないのだけど、恐怖の四季編はスティーブン・キングの著作の中でも評価が高いみたいなんですね。それぞれ映画化もされていますし。

春編『刑務所のリタ・ヘイワース

映画『ショーシャンクの空に』の原作ですな。映画は見てませんでしたが、隠れた名作との評判を聞いていたので、刑務所名が出てきてピンときました。
これはもう塀の中の生活描写がとてつもなくリアル。陰湿な人間関係とか懲罰房での閉塞感が強く感じられて、まるで本当の刑務所経験を語っているようです。長年入所している囚人が語り手であるという形をとっているわけですから、リアルでなければ成り立たないのですが。
長い刑務所生活を経てようやく出所した人が、シャバでの生活に馴染めず、軽い犯罪を犯してまた元に戻ってしまう話など、何ともやりきれないですね。
そんな中、冤罪で刑務所入りした主人公の取る行動やそのひととなりがまた格好いいんですよね。細かいところは書きませんが、最終的に刑務所内の囚人環境をまるっきり変えてしまうところが凄い。
そして(囚人の目からすれば)醜悪な看守達をあざむいて、脱獄を成功させてしまうところは見ものです。

夏編『ゴールデンボーイ

もしこの作品のような事件が現実に起こって、結果のみがニュースで報道された時に、専門家が加害者少年の「心の闇」がどうのこうのとしたり顔で表現しそうだとふと思ったりしました。
でも犯罪に至るまでの過程は、超能力で心を覗かない限りわからないんだろうなぁ。つまりこの作品のように描かれないと。
作品の中では陽気で賢い少年が、元ナチス強制収容所司令官の老人と出会い、強引に過去の話を聞く*1ことで、悪夢に取り込まれて徐々に心のバランスを失っていくさまが生々しく描かれます。
まるで心の中のモンスター*2が成長し、次第に制御が効かなくなってしまったように。
トッドが浮かべる冷たい微笑が目に浮かんでくるようです。
これを読んで感じるのは、人間の心の怖さというより、弱さでしょうか。

*1:無邪気にカッコイイと目を輝かすトッド。読んだ時は老人のように困惑しましたが、後から考えるとその気持ちを全否定はできません。戦車や戦闘機をカッコイイと思ってプラモデルを作った経験に通じるのかもしれませんから

*2:ありふれた表現をすれば「悪意」と言うのかな