2期・18,19冊目 『子産(上・下巻)』

子産(上) (講談社文庫)

子産(上) (講談社文庫)

子産(下) (講談社文庫)

子産(下) (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
信義なき世をいかに生きるか―春秋時代中期、小国鄭は晋と楚の二大国間で向背をくりかえし、民は疲弊し国は誇りを失いつつあった。戦乱の鄭であざやかな武徳をしめす名将子国と、その嫡子で孔子に敬仰された最高の知識人子産。二代にわたる勇気と徳の生涯を謳いあげる歴史叙事詩吉川英治文学賞受賞作。

『夏姫春秋』・『沙中の回廊』と、それまで他国の視点から向背定かでない鄭の外交を読んでいたために、子産の登場によってどう変わったかという点に興味を覚えて読んでみた作品です。
のっけから神童とも言うべき幼少の子産に驚かされます。
幼い内から父や師を驚嘆させるほど古典や歴史に通暁し、それだけなく蓄えた知識を元に政治・外交の事情を見通してしまうのですから。
そして、仕えるに値しない君主・外交に確固たる方針を持たない執政・繰返される戦争によって疲弊する国力。まさにどうしようもない状態の鄭を子産が奇跡の如く立ち直らせるのかと期待してしまいますが、宮城谷作品はそうは単純ではないです。


1人の偉大なる人物が歴史に名を残すには、それを支える無数の人たちがいるわけで。
子産の場合は、優れた武将である父の子国や良き理解者である君主や大夫たち。他国の人物も含みます。
子産は確かにこの時代の為政者として傑出した点として、戦乱の時代に「礼」による外交によって自分だけでなく鄭国の評価を上げ、民衆の暮らしを思って農地改革*1の成果をあげました。
ただ、この時代の人物を丹念に書いていくうちに、作品の中で子産の印象が埋没してしまっている気がしなくもないです。まぁ、著者はそういう書き方をする人なんだとわかってはきましたが。

*1:改革の主旨が理解されなくて手ひどい批判を浴びても、決して妥協せずにやり遂げたこと。そして本当に成果をあげたところがすごい。