2期・3,4冊目『沙中の回廊(上・下)』

沙中の回廊〈上〉 (文春文庫)

沙中の回廊〈上〉 (文春文庫)

沙中の回廊〈下〉 (文春文庫)

沙中の回廊〈下〉 (文春文庫)

前に読んだ『夏姫春秋』が春秋時代、大国に翻弄される小国および南の新興国・楚からの視点だったのに対して、本作は北の大国・晋において没落寸前の家に生まれながらも軍事面で傑出した才能をしめし、歴代最高の宰相と呼ばれる士会を描いた作品です。


どちらかというと上巻の方が情感に溢れた(うわっ、つまんない洒落)描写で好きですね。
晋の公位についた文公(重耳)に対するクーデターの場面から始まり、伝説化された人物・介子推との偶然の出会いや、敗軍の将を助ける場面(これが後々、士会の運命に大きく携わってくる)もそうですが、何よりも周の王女かもしれない妻を迎えるくだりがドラマチックですね。
若い頃はなかなかその才能を評価されなかった士会ですが、腐ったり自暴自棄にならずに辛抱して、天が時を与えたのだと解釈して、それまで個人の武術ばかりだったのに知識の吸収に励みます。そのあたりの経験が後々に生きてくるのですね。
あまり知られていない若き日の士会のエピソードをじっくり読ませてくれます。


下巻は楚の台頭や晋国内の混乱によって、徐々に士会の軍才が必要となり重く用いられていきます。
そのあたりはこちらにも書かれている通り、楚の名君・荘王を相手にしての勝利とか活躍の場面が目立つのですが、本作では士会自身の人格の高潔さが清々しいです。