2期・7冊目 『風は山河より1』

風は山河より 第一巻

風は山河より 第一巻

宮城谷昌光氏初の日本史物ということで、期待して単行本で買ってしまいました。
戦国武将としては、かなりマイナーと思われる菅沼氏が主人公の作品。私などはかろうじて菅沼定盈の名は記憶にありましたが、どんなことをした人であったか定かではなかったです。*1


その定盈の祖父である菅沼新八郎定則(野田菅沼氏初代)の頃から物語は始まります。
冒頭に戦雲は西から起こったと表現されていますが、東三河にある野田城の西方、西三河では松平清康が歴史の表舞台に登場していたんですねぇ。


徳阿弥松平親氏)から始まるとされている家康以前の松平氏については、司馬遼太郎『覇王の家』で読んだことがありますが、本作の1巻ではほぼ清康がメインと言ってもいいくらいその活躍が描かれていますね。「三十代まで生きていたら天下を取っていた」というのはいくら何でも崇め過ぎでしょうが、君主としての魅力が随一だったということはよくわかります。同時に駆け引きを厭う純粋な武人タイプでもあります。このへんは三河人気質と一緒に述べられていますが。
守山で死ななかったら、尾張織田信秀、駿・遠の今川義元、さらに加えれば美濃の斉藤道三*2と並んでその後の東海地方がどうなっていたか、とても興味深いものがあります。


主人公の菅沼定則についても、戦場での勇猛な戦いぶりに対して、普段は穏和な人となりが好ましい人物です。著者創作と思われる定則周辺の人物達も今後気になります。
さて、まだ1巻を読んだだけの印象ですが、これまでの著者の春秋時代の中国ものとは微妙に趣が違うような気がします。どこか雰囲気が司馬遼太郎に近いような気がするんですけどね。
ただ、淡々として同時代での観察者的な気配がある司馬戦国ものに対し、もう少し主要人物に対する情が篤い気もしますね。
あとはやはり「兵が勁(つよ)い」とか「幽(かす)かに笑う」のように漢字の使い方が、他の日本史物を扱う作家とは違う雰囲気を見せているように思いました。そのあたりは中国史もので培ったせいもあるんでしょうね。

*1:野田城の戦い三方ヶ原の戦いに勝利した武田信玄が攻め寄せた)での防御側の城主だったことをやっと思い出したり。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E7%94%B0%E5%9F%8E%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84

*2:作中では、尾張を通って美濃に遠征する予定でした