13期・13冊目 『神統記(テオゴニア)』

神統記(テオゴニア) (PASH!ブックス)

神統記(テオゴニア) (PASH!ブックス)

内容(「BOOK」データベースより)

その日も、果てもなく殺し合いが続いていた。灰猿人、豚人、蜥蝪人…亜人種らの度重なる侵攻に苦しむ辺境の地。戦いのさなか、命の危機に瀕した少年カイの脳裏に突如甦えった前世の記憶。「おにぎりが食いてえなぁ…」この世の『仕様』に気付きを得たカイは、神の加護のもと、抗い、這いずり、戦乱を生きる力を磨く―。広漠たる世横と深き謎、そしてひとりの少年の成長を綴る一大叙事詩

小説家になろう」にて、以前:『陶都物語〜赤き炎の中に〜』を執筆していた作家さんであり、書籍も購入して続編を楽しみにしていたのですが、同作は非常に残念なことに打ち切られてWeb版も更新が止まってしまいました。
その後、異世界を舞台とした新作を発表されて、これがまた非常に面白くて夢中になって読み始めて、この度めでたく書籍化されました。
『神統記(テオゴニア)』
今度こそはWeb版、書籍版ともに長く続いて欲しいと願うところであります。


本作においては人族が住まう辺境(作品内では辺土)において、兵卒として1年目のカイという名の13歳の少年が主人公。
辺土においては亜人種族の侵入が続いていて、体力の劣る人族は数をもって辛うじて対抗しているという厳しい状況。
強さこそ全てという中で、両親を失った孤児のカイはラグ村の中でも最底辺の境遇であり、ひもじい暮らしの中で育ちざかりの体はいつも食べ物を欲していました。
精強なる灰猿人(マカク)族との戦いの最中、ふと浮かんだ言葉「オニギリが食べたいなぁ」
それをきっかけにカイの頭の中に前世の知識がどんどん流入してきて・・・。


土地神の加護を受けし者*1の普通の人とは隔絶した超人ぶり。
生きとし生ける者にはその体内に神石を宿していて、それは本人の強さに応じた大きさとなっており、倒した者の中から神石を奪い、中の髄液をすすることにより強くなれる(カイの中の前世知識ではレベルアップと認識)。
一帯の辺土を統べる辺土伯の号令により、亜人の侵攻に対して村同士で援軍を出し合って協力して守りあっている。
ただし援軍を出してもらった場合は礼として食料を差し出さなければならなく、戦いのたびに貴重な働き手や食料を損耗し、このままではじり貧になりそうな気配。
次々と沸いて出てくる前世知識を消化しつつ、カイの生まれ育った辺土の状況と世界観が綴られます。
いわゆる異世界転生としてはハードモードな世界と言えましょう。
ある日、豚人(オーグ)族の大軍に攻められた村を救援に向かった、カイを含むラグ村の戦士たちですが、人族連合軍は敵の巧妙な罠に嵌って大敗。森の中で撤退中に豚人に執拗に追われたカイは重傷を負ったまま崖から落ちたのですが、それが運命を変える谷の神様との出会いであったのでした。


神々の存在が人々の暮らしに結びついていることがわかる時代背景を地球の歴史に当てはめてみると、中世よりも古い印象を受けました。
日常は淡々として落ち着いた文章でありながら、戦いとなると躍動感ある筆致。
亜人族との長い闘争が続く人族の村の中での最底辺であるカイの状況からして重苦しい雰囲気で始まりますが、屈託のないカイの個性もあって、ジブリアニメを見ているような、先の展開が楽しみでならない物語でした。
13歳という生きるのに無我夢中な少年は急に湧き出した前世知識に加えて、谷の神様の守護を得たことにより、ただの村人以上にこの世界の理に触れることになっていく。
例えば、先に戦った種族以外に蜥蝪人族や小人族との出会いもあって、急速に成長していく様子が楽しいです。
いずれ、ただの村の少年の枠には収まりきらない気配を見せつつ、今はまだラグ村の一員であることからは逃れられない難しさは感じますね。

*1:ラグ村の中では領主とその嫡子と娘の3名のみ