5期・53冊目 『アメリカ第2次南北戦争』

アメリカ第二次南北戦争

アメリカ第二次南北戦争

内容(「BOOK」データベースより)
直木賞作家が鋭い批判眼と歴史観を以て描く、起こりうる明日の世界。「世界の警察官」アメリカに、内乱が勃発。そのとき日本は、世界は、どう動くのか―。

アメリカという複雑な国が抱える各種の問題(銃規制とか差別とか)による緊張が極度に高まった近未来、大統領暗殺を機に勃発した内戦を描いていますが、近未来シュミレーションというより、冒険小説というかエンターテイメント色ある小説ですね。
戦争を主題しているのに娯楽性とは語弊がありますが、南北に分かれて戦争をおっぱじめてしまった経緯を詳しく書くより、停戦時に内情調査名目で来た日本人ジャーナリストが現地で様々な出会いを通して、アメリカで生まれた文化・歴史を見つめなおすというのが主眼となっているからです。


たぶん主人公のアメリカ観というのは日本人の持つ平均的なものだと思います。そんな彼がまず最初に出会うのが義勇軍キャンプにて過去の憧れをそのままに持ちお祭り気分でやってきた年輩者たちと、心の底でアメリカ人を憎み復讐することに意義を見出す男(結城)。
そして結城に加えて共に旅するのが、生まれ育った国(アメリカ)よりも父祖の地の影響強いイタリア系アメリカ人美女・ヴェロニカとアメリカ的保守を代表する南部美人のマーガレットの二人。といった具合に対照的な人物を登場させてその考え方などを表現しているのがうまいです。例えばヴェロニカ=カソリック、マーガレット=プロテスタントとしてその性の感覚をあけっぴろげに会話させたりしているのも日本人にはわかりにくい宗教観をコミカルに表現したかったためでしょうね。
更に後半に入ると、胡散臭げなフランス人官僚に(かつてアメリカが戦争介入して民主主義国化した)イラク人ボランティアといった外国人による冷めたアメリカ観が書いてあるのも面白い。


そんな中で主人公の考えも様々に揺れ動き、優柔不断さは相変わらずですが、最後まで彼らしい優しさと勇気を捨てないのが好ましいです。
ところどころ間に挟むレポートがあるので読者としてはそれまでの経緯がわかりますが、一貫して一人称を通し、一人語りが多いのはちょっとだらけるところがありますね。まぁ著者らしいのですけど。
そういえば最大の山場はニューオリンズ*1を舞台にして包囲戦やら現代のジャンヌ・ダルクやら魔女裁判まで登場させたのは著者の趣味*2だろうなぁと思いましたね。

*1:フランス読みでヌーベル・オルレアン

*2:『英仏百年戦争』の他、フランス史関係の著作が多いので