8期・18冊目 『ジェノサイド』

ジェノサイド

ジェノサイド

内容(「BOOK」データベースより)
急死したはずの父親から送られてきた一通のメール。それがすべての発端だった。創薬化学を専攻する大学院生・古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、隠されていた私設実験室に辿り着く。ウイルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか。同じ頃、特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガーは、難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けた。暗殺任務と思しき詳細不明の作戦。事前に明かされたのは、「人類全体に奉仕する仕事」ということだけだった。イエーガーは暗殺チームの一員となり、戦争状態にあるコンゴのジャングル地帯に潜入するが…。

前に『十三階段』を読んで非常に良かったのがあったので、本作を知り手に取りました。
その世界観やテーマはだいぶ趣が違いますが、ハリウッド映画のようなスケールの大きさと迫力、そしてスリリングな展開に勢いがあって、長編ですが最後まで作品に没頭できました。

  • 急死した父の遺志を継いで不治の病の特効薬を独力で開発しようとする、どこか頼りない大学院生・古賀研人。
  • 難病の息子の治療費のために民間警備会社に就職した元特殊部隊の軍人ジョナサン・イエーガーは莫大な報酬と引き換えにある特別な作戦に参加するためにアフリカに赴く。
  • 研究を兼ねて権力の中枢に参画した天才学者・アーサー・ルーベンスは心中に秘めたものを隠して秘密作戦の指揮を執る。


立場も環境も違う三者が日本とアメリカとアフリカの地において、それぞれ別々に進んでいた話が展開されていきますが、ストーリーが進むにつれて密接に関わってゆくさまがわかります。
やがて明かされるのは、アフリカの奥地で誕生した超人類の存在。
それを脅威として、関わった人々ごと闇に葬り去ろうとする米国首脳。
作戦の裏に隠された意図を知り、一転して超人類を護衛してアフリカを脱出しようとする元軍人のチームにネットワーク越しにそれを支援する者たち。
それぞれの駆け引きとサバイバルが息もつかせぬほどの展開で目が離せませんでした。
常に命の危険に晒され、圧倒的に不利に見えたイエーガー一行ですが、「日本の援軍」*1によって何度も窮地を脱するのです。
後から考えれば、ソレができるのならばもっと楽に行けたんじゃないの?とは思いましたが、やはり立ちはだかる困難を超えてゆく醍醐味を味わうには切り札は後出しにするしかないでしょうかね。


一貫して語られるテーマは戦争の歴史と言ってもいいほどの攻撃性を持つ人類。もしそれを超越する存在が生まれるとしたら、どういった関係になるのか?
そういう意味で、解決の目途のつかない内戦の真っただ中にあるコンゴを舞台にしたのは良かったと思いますが、ジェノサイド(虐殺)を扱ったわりには触れられた歴史事件が偏っていたのはちょっと疑問でしたね。
そしてもう一点、登場人物の行動は父子関係が大いに影響しており、イエーガーや研人が正の関係としたら、暴力的威圧的な父の存在がその精神を歪めてしまった米大統領バーンズや傭兵ミック*2は負の関係として対照的でした。
中でもミックの存在が微妙。なぜ唯一日本人として選ばれたのか?*3彼の異常な攻撃性についても理由は曖昧なままあっけなく退場してしまったりして、その扱いには不満が残りました。

*1:古賀研人も含む

*2:本名ミキヒコ・カシワバラという自衛隊フランス外人部隊出身の日本人

*3:一行が日本に行く際に何らかの役割があるのかと思ってた