5期・54冊目 『ステップ』

ステップ (双葉文庫)

ステップ (双葉文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
バーのマスター斉木章の裏の顔は、盗みのプロ。一年前のヤマで相棒と恋人を失い、いまは傷心の日々を送っている。ある朝、弟分の悟が転がり込んできた。女をめぐるトラブルで清瀧会の幹部を刺したという。事態の収拾をはかった斉木だが、捕えられ命を落とす。だが、気がつくと昨日に戻っていた。悟を救うため、そして、“今日”を取り戻すため、斉木は横浜の夜を疾走する―。盗みのプロが落ちた生と死のループ。繰り返される“今日”に“明日”は訪れるのか!?俊英が放つタイムスリップ・アクション。

この物語の主人公はひょんなことでトラブルに巻き込まれて命を落とすと、時を遡って生き返るという不思議な体験をします。
普通は人生とはやりなおしがきかないもの。そこを自らの過ちに気づいて直前の行動を修正できるのはいいですが、死ぬ苦しみは変わらないわけで、その痛み(ほとんど拳銃で撃たれるが、時にはトラックの下敷きになったり、溺死したり)を何度も味わうのは読んでる方もつらいものがありますね。


物語の背景としてはさほど複雑ではないものの、主人公が前の章の経験を活かして危機を回避したと思えば今度は別の陰謀が顔を出し再び命を失う、一つ解決したと思ったら別の謎を呼び、なかなか安心させることなく、先が気になる展開が続きます。
自分と大切な仲間の命を救うためにがむしゃらに行動する主人公はタフで一途であり、つい応援したくなる気持ちになるのも確か。
文字通り命を懸けた主人公の行動は決して無駄ではなく、最初の頃と比べて周囲は変わっていきます。そして行き着いた先にあるのは過去の事件の真相に繋がる驚きの事実。


ハードボイルドの主人公が何度も危機に陥りながらも状況を打開していくのは王道ですが、そこを何度も死なせることによって謎解きとシチュエーションの変化を味あわせる趣向は斬新でした。タイムスリップも最初はまる1日だったのが、徐々に短くなり緊迫感が増していくよう巧く考えてますしね。かえって読む方が変化についていけずに苦労しましたが(笑)