11期・8冊目 『All You Need Is Kill』

All You Need Is Kill (スーパーダッシュ文庫)

All You Need Is Kill (スーパーダッシュ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

「出撃なんて、実力試験みたいなもんじゃない?」敵弾が体を貫いた瞬間、キリヤ・ケイジは出撃前日に戻っていた。トーキョーのはるか南方、コトイウシと呼ばれる島の激戦区。寄せ集め部隊は敗北必至の激戦を繰り返す。出撃。戦死。出撃。戦死―死すら日常になる毎日。ループが百五十八回を数えたとき、煙たなびく戦場でケイジはひとりの女性と再会する…。期待の新鋭が放つ、切なく不思議なSFアクション。はたして、絶望的な戦況を覆し、まだ見ぬ明日へ脱出することはできるのか。

近未来では宇宙から飛来したギタイと呼ばれる生命体による侵略の影響で世界各地が汚染され、人類は存亡の危機に瀕していました。
ギタイはその侵略の過程で進化していき、生身の人間では対抗しえない強さを誇り、機動ジャケット(人が乗り込むパワードスーツらしきもの)を投入した人類側の必死の抵抗虚しく後退を重ねている状況。
そんな中で房総半島に構築した防御線(通称フラワーライン)の基地に所属するJP新兵のキリヤ・ケイジは初の実戦で戦死してしまうのですが、気が付くと出撃前日の朝に戻っていました。
繰り返される出撃と戦死の日々の中で否応なく戦闘技術を身につけてしまったケイジ。
果たしてこのループはいつまで続くのか?


同じ日を繰り返すタイム・ループものとして最近知って興味を覚えたので買ってみました。
漫画・映画とメディア化もされていて評判もかなり良さそうだったのですが、自分自身がラノベをあまり読んでこなかったこともあって、あまり期待しすぎないようにしていたのですね。
当初の主人公視線からすると絶望的なほどの脅威であるギタイ。逃げることも叶わず*1、慣れていく戦場の中で戦う術を身に着けていくが、結局は殺されてしまう。
そのためか序盤の雰囲気は結構重苦しかったですね。
例え今日が苦しくても明日が来ることに希望を見いだせるのに、結末が定められた日常ほど感覚が麻痺し精神を蝕むものはないのでしょう。

毎日毎日八十回も連続で同じメシを食っていれば、三ツ星レストランのシェフが作った料理だって味に違いは感じなくなる。いまのぼくにとって、エネルギー補給以外の意味を食事に見いだすことは困難だ。


展開がガラっと変わったのが、主人公とリタ・ヴラタスキ*2が戦場で再会した時。
互いが同じ境遇にいることを理解し、荒んだ精神に心を取り戻します。
ループを抜け出すにはギタイの中でサーバと呼ばれる個体を倒すこと。
過去の教訓を生かして時間のやり直しをすることで最適の結果を残すのがギタイの最大の強みだったのでした。


時間の牢獄の中での奇跡の出会いがあり、協力しあうというストーリー。そして切ない幕切れ。
いわゆるボーイミーツガールものなのですが、その世界観や設定はなかなか秀逸で読ませるものがあったと思います。
過去は部分的にしか書かれていないので物足りない気はしますが、そこは想像力で補うのでしょうね。

*1:ループに気づいて基地から脱走するも民間人を巻き込んで殺される

*2:孤児となった際に隣のぼろアパートに住む難民のパスポートを無断借用した際の名前なので本名ではない