10期・47冊目 『亜宇宙漂流』

亜宇宙漂流 (文春文庫 (275‐20))

亜宇宙漂流 (文春文庫 (275‐20))

もう8年も前になりますが、『超音速漂流』が面白かったので、ふと同じ作家の作品を読んでみたいと思って手を出してみました。
アメリカの超音速旅客機スター・ストリーク*1が、ロケットエンジンの暴走で規定以上の上昇を行った末に衛星軌道に乗ってしまう。
燃料はすでに枯渇したために亜宇宙空間ではなすすべもなく、無重力空間と化した機内でパニックにかられて死者や怪我人が続出。そして酸素は4,5時間分しか持たない。
時間制限はあるものの、地上との通信が成功し、スター・ストリーク救出のためにNASAによるスペースシャトルの緊急発進が進められるのでした。


しかしこれがすんなりいくはずもなく。
元々の相性の問題なのか、危急の時に対立する機長と副操縦士、それに巻き込まれる航空機関士や乗員。
事故の際に本部の最高責任者だったために指揮を執ることになったNASA副長官補佐はこの機会にNASAの名を上げ手柄を独占しようと目論む。
更にテレビ局や大統領補佐官も自らの利益のために関わってきます。
緊急打ち上げのため、3日間かけて行うはずの検査を数時間に短縮されたスペースシャトルでは、黒人として初の機長に任じられたパイロットは何としてもこのフライトを成功させるため、多少の問題には目をつぶろうとしている。
一方でスター・ストリークの製造元であるユナイテッド・エアロスペース社重役はNASA内部に乗り込み、担当の技術者3人を呼び寄せるのですが、彼らの中に身代金目的の破壊工作を行った者がいるのではないかと疑念を抱き、密かに調査を行う。
果たして今回の事故は偶然なのか、それとも故意に引き起こされたものなのか?
そして救出作戦の行方は?


どうも状況説明やら脇役の心情描写がくどくて、途中までは読みづらかったです。その反面、事態が切迫してくると展開が流れてゆくのですが。
突然無重力空間と化した中での乗員乗客たちのパニックのさまが意外とリアルで興味深いです。
SFではお馴染みとはいえ、宇宙飛行士と違って一般人には縁の無いものですからね。
うっかりシートベルトを外してしまって人々が飛び回る機内を想像すると当人たちの必死ぶりに反してちょっと笑ってしまいました。
でもスチュワーデスがうっかりポットの蓋を開けてしまい、熱々のコーヒーが漂う中に頭から突っ込んで(触れるものが無いと避けようがないため)大火傷を負うシーンは笑えないです。


そもそも乗客乗員合わせて100名の命がかかった緊急を要する救出作戦ですから、国をあげて多くの関係者が協力して取り組まなければならないプロジェクトであるはずです。
しかしこれが亜宇宙という到達手段が限られた場所であることに加えて、様々な人物の思惑が入り乱れて複雑な人間模様として描かれていくあたりはなかなか秀逸であると思えます。
同じような立場になってみなければわかりませんが、人の命がかかっている時でさえ目先の利益や個人のプライドを優先してしまうのかと暗然としてしまいますね。
まぁだからこそ最後のどんでん返しはお約束といえど爽快感を得られるのでしょう。

*1:英仏が開発し、最近まで運用されていたコンコルドがモデルとなっているらしい