7期・42冊目 『鍵―自選短編集』

鍵―自選短編集 (角川ホラー文庫)

鍵―自選短編集 (角川ホラー文庫)

放置された机から見つかった古い鍵束。鍵に秘められた不思議な力に導かれ、甦る寒い思い出…。日常からにじみ出す幻想と恐怖を独自の感性と手法で綴る著者初のホラー短編集。

60年代から90年代にかけて発表された筒井康隆の短編集で、収録作品は以下の通り。


佇むひと
無限効果
公共伏魔殿
池猫
死にかた
ながい話
都市盗掘団
星一
未来都市
怪段
くさり
ふたりの印度人

母子像
二度死んだ少年の記録

筒井康隆は10代から20代にかけてよく読んでいましたのでほぼ半数が既読ではあります。
それでも懐かしさと共にあの頃感じた怖さが蘇ってきて充分楽しめました。
ホラーによくあるスプラッター描写は、どちらかと言うと著者の作品ではドタバタギャグや非ホラー作品に使われ、ここで選ばれた短編ではじんわりとくる怖さを感じさせるものが多いです。あ、でも「死にかた」(突然職場に鬼が現れ、席順に殺していく)*1は例外でしたが、そのグロさに比してどこか人間臭さによるユーモアを感じてしまいますねぇ。
表題作「鍵」は初読。中年に域に達するとふと思い出す若い頃の行為が何とも恥ずかしくて記憶を消し去ってしまいたくなることがあります。
ふと見つけた鍵がきっかけになって、自身の思い出の場所へと辿っていく主人公。なんとなく気持ちはわからないでもないですが、過去に囚われたその結末は望んだものなのかどうか複雑ですね。
また、現場とお役所の乖離を描いた「未来都市」(人々が地下の各層に住んでいる未来。取り壊しの工事の音が段々近づいてくるので役所に訴えるが…)は、設定を別にすればどこにでもありそうな話だけに笑えない。
いじめを苦に自殺した少年が死にきれず学校内を彷徨う「二度死んだ少年の記録」では著者自身が実際に起こった事件を調査するという体裁で書き綴るのですが、著者得意の恐怖と狂気に冒された同級生・先生たちの描写がやけに淡々としてリアル。いじめ主犯に抱きついて息を絶えるラストまでがすさまじい。
そして「佇むひと」(野良犬・猫だけでなく、人でさえも反体制的な言葉・世の中への不満を口にしただけで植物にされてしまう)と「母子像」(不思議な猿の玩具の力によって、妻子が異次元に連れ去られてしまう)の2編が秀逸ですね。最初読んだ頃と比べて今の方が事実上家族を失うこととなった主人公に感情移入できて余計に哀愁を感じられました。

*1:筒井康隆漫画読本』収録の相原コージの漫画が原作に非常に忠実なので記憶に残ってる