7期・43冊目 『群龍の海 東シナ海海戦』

群龍の海〈1〉東シナ海海戦 (歴史群像新書)

群龍の海〈1〉東シナ海海戦 (歴史群像新書)

内容(「BOOK」データベースより)
昭和16年12月17日未明、米重爆撃機隊のクェゼリン環礁、そして台湾への爆撃によってついに太平洋戦争の火蓋が切られた!大艦巨砲主義の米国に対して、航空主兵主義で対抗する日本。デラウェア級4隻を擁する米アジア艦隊は、艦砲射撃で台湾を蹂躙すると、勢いを駆ってその矛先を沖縄へと向けた。「龍」と「鳳」で迎え撃つ日本に勝算はあるのか!?―。

太平洋戦争を迎える前に大艦巨砲主義から航空主兵主義にシフトしたはずの日本ですが、戦艦大和を建設するなど中途半端のまま進み、結局は真珠湾攻撃以後に航空主兵に目覚めた米軍との航空戦に敗れ、せっかく建造した大和・武蔵も役立たずと終わったのは史実の通り。温存され過ぎて大和ホテルなどと揶揄されたり、大和を建造するより中小空母と駆逐艦を多数建造してシーレーン防御に当てるべきだったという声さえあったそうな。
そこで思い切って大艦巨砲主義を捨て、極端と言えるほどの航空主兵主義に生まれ変わった日本と変わらず大艦巨砲主義に突き進んでいたアメリカが戦ったら?という想定の新シリーズのようです。


そのきっかけとして起こしたのが冒頭の異変。大地震によってパナマ周辺が海没し、運河が海峡に変わってしまった。
パナマ運河によってアメリカ東岸と西岸を結ぶ距離は大幅に短縮されたものの、代わりに艦幅33mという制限があったわけですが、それがとっぱられて世界のビッグセブンを上回るデラウェア級を続々建造するのがこの世界のアメリカ。
50口径40cm主砲を3連装四基装備するデラウェア級は単純に比べて当時日本最強であった長門級の倍近い戦闘力を持つという。
国力的に対抗が難しい日本は早々に戦艦建造を打ち切り、航空手段、しかも工数を減らして戦時用に量産ペースをあげた雲龍級と祥鳳級にて数を揃えようとしたわけです。
普通に考えてもそのような方針に切り替えるのはかなり揉めそうな気がするんですが、あの山本五十六を中心になって押し切ったという設定のようですな。
それで最近の著者が描くアメリカはまさに世界征服を目論む悪者っぷりが半端なくて*1、本シリーズでも日本を挑発しまくった末に強引に開戦にもっていくわけです。


まぁ戦ぶりについては特に奇抜なところも無いお堅い展開。
堅過ぎて、米軍指揮官の猪突猛進ぶりはどこかで見たハルゼー?
初の本格的な対空戦闘とは思えない航空機の損耗ぶり。
このへんは通り一遍の展開ではなく、もう少し検討してほしかったですね。
戦場が日本近海であったために米軍側の司令官始め多くの将兵が帰還できなかったために史上初「航空機で戦艦を沈めた戦い」の戦訓をアメリカが活かせないということになるのかと思います。
だけど終盤ではアメリカが更に強力な戦艦登場に加えて月刊空母を匂わせるふしがあったので、この先どこまで日本が航空優位に立てるのかが不安ですね。後継機の運用のためにカタパルト導入とか、多少は考慮しているようですが。


そして最近の横山信義氏の著作は出版社ごとに内容を変えている模様。

  • 中公で手堅い太平洋戦争もの(碧海の海)
  • 歴史群像書でSF設定を取り入れた太平洋戦争もの(騒擾の海、群龍の海)
  • 朝日でSFと架空戦記の融合(宇宙戦争1941〜1943)

どっちにしろ太平洋戦争ものの架空戦記から離れられないようで。
堅実さの裏返しはマンネリとも言いまして、シリーズ当初はともかく、終わりに近づくとどのシリーズも似たような展開になっていっている気がしちゃうんですよね。

*1:現実にそういう面があるのは否定しないが