6期・40冊目 『クージョ』

クージョ (新潮文庫)

クージョ (新潮文庫)

体重200ポンド(約90kg)、人間の大人並の巨体を誇るセントバーナード犬・クージョ。修理工場で飼われている彼は性質大人しく飼い主に忠実な犬であったが、ふとした偶然から狂犬病にかかってしまい、狂気と憎悪に支配されて人を襲う。
車の修理に訪れた母子(ドナとタッド)は、既に工場主を殺したクージョのために壊れて動かない車の中に閉じ込められてしまう。それはちょうど異様な暑さを観測した夏の日の出来事であった・・・。


と主な筋書きとしては簡単ですが、事件に関わるトレントン家と修理工場を経営するキャンバー家と二つの視点によるそれぞれの家族像をその背景まで深く描いているのが特徴です。
それぞれの家族が抱える問題がクージョの狂犬病発症の時期にクライマックスを迎え、さまざまな要因が重なって事件が起こる。
著者の徹底したデテール描写によって視覚だけでなく、暑さや匂いまで感じるような感覚を覚えます。
それに増して心理描写が巧みで、特に主人公であるヴィクは同じように妻子を持つ自分にとっては他人事と思えないくらい感情移入させられますね。
車内に閉じ込められてからのドナの恐怖・怒り・苛立ちといった感情もよく伝わってくる。
結末はネタばれになるので書けませんが、かすかな希望さえを打ち砕く救いの無さはキングらしさでしょうか。