6期・39冊目 『天空の陣風』

天空の陣風(はやて)

天空の陣風(はやて)

剣豪将軍足利義輝より拝領の大太刀と独特の武器・傘鎗(かさやり)を自在に操る若き武人・魔羅賀平助(まらがへいすけ)。愛馬・丹楓(たんぷう)を相棒に気ままな廻国修行の旅を続けていた。
天下の諸侯が召し抱えたいと欲するが、いかなる大名にも仕えず、必ず弱き陣のために働く、それが陣借り平助の流儀だ。
時は群雄が割拠する戦国乱世。美濃、越後、山城、出雲と行く先は、戦火がくすぶっている。勇猛果敢な武将、鬼謀の軍師が平助の加勢を望まれながら、平助が陣借りしたのは、なんとかよわき女人たちだった。
天衣無縫の戦闘者(いくさびと)の活躍はいかに――。戦国ロマンの傑作、颯爽と登場!

戦に滅法強いが常に弱き者・婦女子の味方で私欲とは無縁の「真のもののふ」と称される陣借り平助こと魔羅賀平助(まらがへいすけ)シリーズの2作目になります。
その巨体の割には涼しげな容貌、そして名馬・丹楓(たんぷう)に乗った姿はどうしても自分の脳内では漫画『花の慶次』の前田慶次がイメージされてしまうんですよね。
数々の合戦への陣借りによってその名が全国的に知られていることもあって、今回は派手な戦シーンは無く、旅の中で出会った武将や女性との人情エピソードが叙情感たっぷりに描かれています。
戦国時代のちょっとしたエピソードに平助が関わっていくというかたちでの連作となっており、戦国ファン向けではあるものの、あっさり読めてしまいますね。


収録作品は以下の通り。

竹中半兵衛稲葉山城乗っ取り。ここで関わる半兵衛の母や妹は以後の章でも平助に影響を及ぼす。
最後、半兵衛の母が意外な事実を漏らす。

  • 「咲くや、甲越の花」

武田の老将・原虎胤の最後の戦。
そして野尻池にて宇佐見定満と長尾政景の死を見届ける。
越後の英雄・上杉謙信を巡る裏話的なエピソード。

  • 「鶺鴒の尾」

若狭にて自分の妻と名乗る女が人質になっているために朝倉勢の攻勢に晒される粟屋勝久に陣借りさせられる平助。
明智光秀と後に妻となるひろとの出会いに関わる。

  • 「五月雨の時鳥」

土佐の長宗我部元親の元へ訪れて旧交を温めた平助。
その後、かつて堺の豪商日比野屋へ向かうと自分に助けを求める手紙を受け取る。
『剣豪将軍義輝』の朽木鯉九郎がゲスト出演。

  • 「月下氷人剣」

偶然・尼子氏配下の和耶姫を救うことになった平助がその許婚がいる毛利包囲下の月山富田城へ連れて行くことに。その許婚とは山中鹿之助幸盛であった。




総じて主人公の戦場での活躍はほとんどなくてやや消化不良を感じてしまいましたが、その分各編で登場する女性の存在感が光っていましたね。それも単純に女性的な魅力や愛情だけではなく、守るべきもののために発揮するしたたかさを描いた点が秀逸でしょう。
そして、著者の傑作『剣豪将軍義輝』や『ふたり道三』に通じる設定がちらりと見せられ、その作品が好きな私のような読者にはサービスとも言えます。
そういう意味では、義輝殺害の因縁により平助をも付け狙う松永久秀が悪役として今後も関わってくるのでしょうね。