8期・69冊目 『天魔ゆく空』

天魔ゆく空

天魔ゆく空

内容(「BOOK」データベースより)
妖術を操り、空を飛び、女人を寄せつけず独身を通した“希代の変人”細川政元応仁の乱後の混迷した時代に、知略を尽くして「半将軍」の座をつかみ取る。信長に先立つこと70年、よく似た人生を送り、戦国時代の幕を開けた武将の、真の姿とは?政元の姉・洞勝院と、室町幕府を守ろうとする日野富子。女たちの戦国時代も華々しく幕を開ける。

足利将軍家守護大名家の跡目争いに端を発し、畿内を大乱に巻き込んだ応仁の乱
そして戦乱が日本各地に波及して信長・秀吉・家康が登場する戦国時代。
しかしその狭間の一世紀弱はあまり見向きされない時代であります。
そんな中で応仁の乱における東軍総帥・細川勝元より京兆細川家*1を受け継ぎ、数々の政敵を倒して将軍の首さえすげ替えるなど細川氏の絶頂期を築き上げて「半将軍」とも呼ばれた細川政元を描いたのが本作となります。
私自身も細川と言えば思いつくのが勝元、晴元*2、そして将軍家の側近から戦国大名として家名を残した藤孝(幽斉)くらいでしたからね。
まったくノーマークの人物でした。


冒頭から政元は非常に大人びた少年として描かれています。
それは勝元の嫡男とされるも、母が応仁の乱の敵方であった山名氏の出身であることや、出生時の疑惑からすんなり跡取りと一門から認められない雰囲気の中で育ったことも影響していたようです。
守役の細川政国や異母姉である安喜(後の洞勝院)など身の回りを除いて信用ならない大人に囲まれていたせいでしょうか。
この頃から何を考えているかわからない・周囲を試すような言動という、希代の変人という後の評価を伺わせる部分が見られます。
生涯妻帯しなかった理由の一つとして異母姉への思慕があり、それを封じるために政略に邁進したというあたりは、同様に独身を貫き戦神の化身とされた上杉謙信に似通っている気がしますね。*3


謀略家としては一級の人物。先を読むことに長けていて、あまりに人間離れしていることから天魔と称されるほど。
若き政元が一回り以上年上の日野富子らを翻弄する様は舌を巻きます。
そのクライマックスは10代将軍義材・畠山政長らの留守にクーデーターを起こして新たに11代将軍・義高*4を擁立した明応の政変でしょう。
まさしく下剋上の先駆けを行ったこと、敵方の拠点と断じて比叡山延暦寺を焼き討ちしたことなども含めてその事績が織田信長と近しいことが後書きで書かれていますが、どちらかと言うと最後まで周囲を振り回したという人物像が似通っているようにも思えます。
著者が意識し過ぎたせいか、終盤は「天魔」が頻出してきて、やや露骨に感じましたが。
それに姉弟や家臣の心情描写が丁寧であった前半に比べて後半は駆け足気味であり、政元の死のきっかけとなる細川家内紛の流れが飛び過ぎて把握しにくかったのが残念です。
ともあれ、細川政元、それに長らく尼でありながら還俗して赤松家に嫁入りし、夫・赤松政則の死後も家政を牛耳り女戦国大名との異名を取った姉・洞勝院(洞松院)*5という人物を知れたのは良かったですね。

*1:幕府管領を務める細川本家

*2:足利義晴〜義輝時代の管領

*3:死後に養子同士が争って、領国が真っ二つに分かれたのも同じ

*4:後に義澄と改名

*5:この波乱の人生を送った女性を主人公にしても一冊本ができそう