5期・39冊目 『ぼくはお城の王様だ』

ぼくはお城の王様だ

ぼくはお城の王様だ

出版社/著者からの内容紹介
少年の邪悪な魂、それをもあなたは愛してしまう。
サマセット・モーム賞受賞作〉


11歳の子の罪深い心理を描写した衝撃作!
11歳のエドモントのお屋敷に母と一緒に居候することになってから、同じ年のチャールズの地獄が始まった。エドモントのチャールズへの執拗ないじめの始まりだ!

大人に限らず子供であっても初対面で相性の合う合わないはありますが、最悪な形で出会ってしまったのが本作のチャールズ・キングショーとエドモント・フーバーの二人。学校や近所といった付き合いならば避けようはあるのに、長い夏休みの間同じ家で過ごさねばならず、さらに片親同士が懇ろになってゆくゆくは同じ家族になるなどまさに悪夢のよう。
もともと父子で住んでいるフーバー家に家政婦的な条件で住み込んだキングショー母子という立場の違いに加えて、嫌っている割には興味津々で常にちょっかい出してくるエドモントの悪意に否応無く追い詰められて気弱なチャールズの心理が手に取るよう。
ただ、これを単なる苛めを書いた物語と思うとそうでもないんですね。エドモントにしてもチャールズにしても、これくらいの年齢の子供が持つ大人との距離感や、物や友人に対する複雑な心理(自分だけの秘密であったことが明かされてしまう恐怖とか)について、自分の子供の頃を振り返ってみるとよく表現されていると思うのです。子供は実に直裁で残酷です。


著者あとがきによると、発表当初は大人は非現実的だと批判したのに対し、子供の方がきわめて現実的な内容と受け止められたそうな
大人向けとして書かれた内容ではあったが、むしろ子供の共感を呼び広く読まれるようになったとはやや皮肉ではありますが、子供に幻想を抱きたい一部の大人にとってはここまで赤裸々に傷つけ傷つけられる内容は受け入れがたかったのかしれないですね。やはり、読者を選ぶ作品ではあります。