10期・22,23冊目 『冷たい校舎の時は止まる(上・下)』

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)

冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)

冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
ある雪の日、学校に閉じ込められた男女8人の高校生。どうしても開かない玄関の扉、そして他には誰も登校してこない、時が止まった校舎。不可解な現象の謎を追ううちに彼らは2ヵ月前に起きた学園祭での自殺事件を思い出す。しかし8人は死んだ級友の名前が思い出せない。死んだのは誰!?誰もが過ぎる青春という一時代をリアルに切なく描いた長編傑作。

上のあらすじの通り、大雪の中で登校してきた8人の男女が校舎に閉じ込められるという導入部。
不思議なことに照明や暖房は最初からついていたものの、彼ら以外に教師や生徒が一人も姿が見当たらない。そして5:53のまま時が止まった校舎。
当初は担任である榊による悪戯かと疑ったのですが、教師一人がするには大掛かりすぎる。
それにクラス委員として学園祭で協力しあった8人だけがここにいるという偶然。
そこで実際に海外で起こった集団失踪事件をヒントに、ここは現実の世界ではなく誰かの精神世界に閉じ込められたのではないかという仮説が立てられます。
その誰かというのは、学園祭最終日に飛び降り自殺をした人物ではないかと。
しかし、あれだけの衝撃的な事件なのに死んだのは同じクラスだったという以外に具体的なことが思い出せない。
記憶から消えているのは、実はこの8人の中にその人物が含まれているからではないか?
また、ここに閉じ込めたのは何かを伝えるためではないかと推測するのですが…。
そして再び時は動きだし、自殺があった5:53になるたびに仲間が消えてチャイムが鳴る。
消えた仲間の代わりに残されたマネキンはまるで死に至ったようにしか見えず、ここに閉じ込めた人物の抱く悪意と憎悪の大きさに暗然とするのでした。


大雪の中、閉じ込められた校舎という舞台のせいか、高校生が主人公の学園ものにしてはいきなり暗い雰囲気なのが不安を誘いますね。
しかも高校生活最後の大イベントで起きたクラスメイトの自殺があって、それが誰なのかが思い出せない、8人の誰が該当するのかわからない。それが各自の心理に大きな影を投げかけています。
とはいえ、ここに登場する8人は性格の違いはあっても、過去に友人関係のトラブルで追い詰められた深月を除き、自殺など考えられないように思えます。
それゆえ深月が自殺してこの世界を造ったのかというと、そうは単純でもないらしい。
登場人物それぞれが抱える事情が丹念に描かれ、過去と現在を交差しつつ、意外な展開が待つ終盤へと繋がっていきます。


どちらかというとミステリ仕立ての要素が大きく、内容は決して悪くは無くキャラも立っているのですが、青春群像ものとしての人物掘り下げ描写が長すぎて冗長的になってしまったのが惜しい気がします。
いろいろと詰め込み過ぎたのかもしれませんね。人物によってもう少し切り捨てても良かったのではと勝手に思ってしまいました。
それにイジメ・自殺といった負の面がテーマになっていたのも重くさせる一因ではありましたな。
終盤はさすがにテンポ良く、明るい未来を感じさせるラストだったのは良かったですが、さすがに「ようやく読み終わった。長かった〜」という感慨は確かにありました。