6期・2冊目 『ミザリー』

ミザリー (文春文庫)

ミザリー (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
雪道の自動車事故で半身不随になった流行作家ポール・シェルダン、元看護婦の愛読者に助けられて一安心したのが大間違い、監禁されて「自分ひとりのために」小説を書けと脅迫されるのだ。キング自身の恐怖心に根ざすファン心理のおぞましさと狂気の極限を描き、作中に別の恐怖小説を挿入した力作。

主な登場人物は、事故によって下半身不随になった流行作家ポール・シェルダンと、彼のベストセラー作品「ミザリー・シリーズ」のナンバーワンファンを自称するアニー・ウィルクス。その二人によって長期に渡って繰り広げられる密室劇となっています。
元看護婦であるアニーによって助け出され応急処置をされたまでは良かったものの、ポールは事実上アニーの家で軟禁状態。書き上げたばかりの新作小説を焼かれ、完結したはずのミザリー・シリーズの続きを書けと強要される。言うことは聞かなかったり、外に助けを呼ぼうとすると・・・。


長い作品でありますが、足の怪我とその痛みに苦しむ中でもがくポールの行動には手に汗を握り、躁鬱の激しいアニーの突拍子もない行動に翻弄される。ディテールの描写は精微であり、作品内の表現を借りれば両者の駆け引きは「まさにいきいきと」描かれています。
言うまでも無く内容はサイコホラーですが、自らの行動をTV番組風に表現したり、タイプライターを始めとする身近な物を擬人化して軽妙をなやりとりをするポールにはユーモアも感じ取れます。まぁそうでもしないと精神的なバランスを取れないのでしょうが。
彼によって死んだはずのミザリーはアニーによって生還を強要され、その内容が一部書かれています。そちらを読むとポールの精神状態に微妙にシンクロしているようにも取れますね。
著者も実際に体験した*1というファンの極めて自己中心的な心理に加えて、もともと精神的に不安的かつ人を傷つけることに何の躊躇を持たないアニーの異常な行動には作家でなくとも読む者にその恐ろしさが充分伝わってきます。ポールの陥った異常事態に感情移入せずにいられない。まさに大人のホラー。


とある事件をきっかけにアニーは警察や周囲から疑惑を持たれるようになるのですが、ポールは最高傑作となりつつある『ミザリーの生還』を書き上げるのを優先し、それと同時にある計画を立てる。そこからラストまでは目が離せません。
著者が『ミザリー』に自分自身というか作家という職業を色濃く反映させているとしたら、このラストが一番ふさわしいのでしょうね。

*1:訳者あとがきにその具体例が記載されている