6期・11冊目 『晩鐘 続・泣きの銀次』

晩鐘 続・泣きの銀次 (講談社文庫)

晩鐘 続・泣きの銀次 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
小間物問屋・坂本屋銀佐衛門こと銀次も40歳、不惑の年を迎えた。殺された妹と同じ名のお菊を助けたことから、再び十手を握って、江戸市中を騒がす娘拐かし事件の解決に乗り出す。死人を見ると涙が止まらない、かわった岡っ引き・銀次復活。10年の時を経て、不惑の銀次が拐かし事件に乗り出す。ご存知、人気捕物長編。

前作での事件解決後、十手を返上した銀次はお芳と世帯を持って3女1男の子持ちとなるも、店の方は二度の火事に見舞われたことで零落して小さな小間物問屋を持つのみ。
決して以前のような裕福な暮らしではないものの、子らに囲まれてそれなりに幸せであろうことがうかがえます。
岡っ引きの仕事から離れて平凡な日々を送っていた銀次ですが、連続拉致暴行事件が江戸の世を騒がしている中、ふとしたきっかけで殺された妹と同じ名のお菊を助けたことから、再び十手を握ることに。
不惑の年を迎えて以前のような軽やかな身のこなしは望むべくもないですが、心配りと機転を効かせて捜査を進めていくさまが読んでいて快い。偶然得た人の縁が後々の助けとなるのも銀次の人柄ゆえか。*1
また、日々の生活や事件に絡んで銀次親子の情には温かな気持ちにさせられます。


ところで前作では連続殺人鬼の捕り物でしたが、今回は若い女性を殴り殺すことで快楽を覚えるという性癖の持ち主が犯人とされています。そのへんで銀次周辺の日常描写と事件詳細のギャップを感じるのですが、その犯人の半生から犯行に至るまでの心理的要因までしっかり描かれているのであくまでも流れは自然です。
平和な印象の江戸時代といえど、血なまぐさい事件は起こっていたわけで、あえて現代に通じる要素と身分の壁や風俗といった歴史的背景を融合させているシリーズなんだなぁと気づいたのですね。ちょっと前作ではそこまで思い至らなかったです。


そういえば十年の時を経ると銀次の周囲も様変わりしてしまっているのですが、中でも片腕とも言える存在であった下っ匹の政吉が、銀次引退後のすれ違いと店の繁盛によってまったく変わってしまっていたのが驚きでしたね。時と金は人を変えるというべきか。
最後には仲が戻ることを半ば期待していたのですが、結局悲しい結末を迎えてしまいました。
最後に響く晩鐘の音が象徴するように、事件は解決したものの決してハッピーエンドではありません。逆にそれが普通の時代劇とは一味違う作品として強く印象づけられるのです。

*1:前回の山東京伝に引き続き実在の人物として、今回は『甲子夜話』を記した松浦静山が登場して事件解決に大きな役割を果たす