6期・3冊目 『火天風神』

火天風神 (光文社文庫)

火天風神 (光文社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
最大瞬間風速70メートル超。観測史上最大級の大型台風が三浦半島を直撃した。電話も電気も不通、陸路も遮断され、孤立したリゾートマンション。猛る風と迸る雨は、十数人の滞在客たちを恐怖と絶望のどん底に突き落としてゆく。そして、空室からは死体が見つかって…。殺人なのか?そして犯人はこの中に!?謎とサスペンスに満ちた傑作パニック小説。

大災害によるパニック小説で描かれるのは、その災害の凄まじさもさることながら、対処する人間の油断や過ち、災害に乗じたデマや騒乱といった人災による面も大きいです。
ここで描かれるのは、タイトルで象徴される史上最大の台風と火災はもちろんですが、陸の孤島と化したリゾートマンションを取り巻く人々による赤裸々な人間模様がメインとなってパニック&サスペンス要素がぎっちり濃縮された作品でしたね。三つの導入部もこれから起こるであろうことを予想させる思わせぶりな内容で非常にそそります。


途中の会話に出てきたように、人は地震のようにいつ起こるかわからい災害には注意しようとするが、台風のようにいつ・どのくらいの規模でやってくるのかテレビ等で知ることができると安心してしまい、つい対応を怠ってしまう。特に毎年台風による甚大な被害を蒙る九州はじめ沿岸沿いに人々ならともかく、関東地方ではあまり縁が無いだけに過小評価しがちかもしれません。いきなり序盤で海岸に出て高波にさらわれるシーンなど不運というより無用心としか言い様が無いのですが、実際にそういう事故は頻繁に起きていますからねぇ。
しかも一旦大規模な災害に見舞われると都会のインフラの脆弱さは致命的。作品内でも家族が安否を気遣い現地に向かうさまが描かれますが、内陸部の交通も遮断されて結局辿り付けなかったりします。


リゾートマンションという非日常的なスペースで、脆くも日常的に抱え込んでいる部分を曝け出してしまう登場人物たち。それも登校拒否児に聴力障害者、家庭から逃げ出した女性に不倫カップルと訳ありな人物ばかり。感情もぶつかりあって非常時を前に結束もままなりません。
そんな中で住民たちを惑わすのが建物の欠陥工事だったり、得体の知らない死体だったり、ゾンビの如き不死身さで女子供を襲う管理人!
まさかと思う一つ一つの不運がこれでもかと重なって襲い来るのがパニックものなんだなぁとしみじみ思いますな。
最後は単純なハッピーエンドではなく、台風一過の後の街並みと同様に生き残った人たちに深い傷とかすかな希望を残したのが印象的でした。