4期・56冊目 『TSUNAMI』

TSUNAMI 津波 (集英社文庫)

TSUNAMI 津波 (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
東海大地震。起きる起きないが問題なのではない。それは必ず起きる。だから、今から何をしなければならないのか。独自のハザードマップを作り、地震対策に努める26歳の市役所防災課職員がいた。だが、大地震が連続して発生。空前の大津波が太平洋岸を襲う!そのとき恋人は、超高層ビルの建築主は、原子力発電所の職員は、自衛隊員は、首相は、どう運命と向き合ったのか!?大迫力の防災サスペンス作品。

過去に100年あるいは150年の周期で発生していて、そして将来必ず起こるだろうと言われている東海地震および連動する可能性のある東南海地震・南海地震。もしそれらの海溝型地震が発生し、巨大な津波が太平洋沿岸に襲ってきたら?という災害シミュレーション小説。著者の災害3部作のうちの2作目です。


日本に住んでいればどこでも起こりうる地震に比べて、海沿いに住んでいない限り津波の脅威というのはなかなか実感できないものかもしれません。地震・火山などに比べて報道の数が少なくイメージが沸きにくいというのがあります。
しかし実際に2004年に約22万人の死者を出したスマトラ島沖地震*1での津波被害が何度も引き合いに出されていて、その想像を絶する脅威といざとなった場合の対処の難しさが強調されています。
作品の中でも津波警報が出ているのにも関わらず、ビーチでのイベントに集まった人々が一向に危機感を持たない様子が描かれています。かえって沖合いにサメが出たというデマの方が効果あったという皮肉。
また、地震津波対策として交通機関をはじめとするモノの流通を止めると、一日に億単位での経済損失が起こるため、紛糾する内閣・苦悩する首相の姿が結構現実的に感じますね。*2


流れとしては、東海地方に起こるであろう大規模地震の予知、そして実際に名古屋で発生した震度7規模の地震。しかしそれは前ぶりに過ぎなく、太平洋側で相次いで発生した海溝型地震によって災厄に見舞われる太平洋沿岸部。
地震で混乱の極みの中、何度も繰り返し襲う大津波。それは巨石や列車なども簡単に動かし、地形さえ変えてしまう。人が大波に巻き込まれると「刃物や石と一緒に洗濯された」というほど酷い有様になってしまうというから恐ろしい。
地下部分が発達した都市、沿岸部のコンビナート、数多くの船が出入りする港湾、海沿いを走る幹線道路や鉄道・・・。地震津波により破壊されるものをあげればきりがありません。つくづく海に囲まれた地震大国の日本列島の脆弱性を感じます。
そこは過去に何度も襲った地震経験*3をもとにして対応に奔走する首相以下の様々な人物の活躍も見逃せません。*4


全体的な印象では、前半部分では災害の実情や予知に関する説明が冗長的でテンポ悪く感じました。下手に会話シーンであのような長い説明を入れずに、解説と会話を分けてしまった方が良かったかもしれません。
逆に各地を襲う地震津波のすさまじさが中心になる後半に入ると迫力は増していき読むペースも速まっていくのですが。
史上稀に見る天災に襲われた日本が今後どうなっていくのか、そのあたりが気になる結末となっていますね。

*1:wikipedia:スマトラ島沖地震

*2:トップの決断のタイミングによって被害者の桁を変えるほどの重要さを持つのだろう

*3:前作で発生した平成南関東大震災も含む

*4:衝突事故を起こしたタンカーとLPGガス船を切り離すために危険な現場に赴き、使命を全うした後に海に落ちた自衛官は助かったのかどうかすごく気になったのだけど・・・