4期・31冊目 『手紙』

手紙 (文春文庫)

手紙 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く…。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる苛酷な現実。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。犯罪加害者の家族を真正面から描き切り、感動を呼んだ不朽の名作。

感動を呼ぶというより、個人的には重苦しいテーマだなと思った作品。
塀の中と外で分断された兄弟が、片方は服役している中で手紙という形で繋がりを欲し、片方は社会でまっとうに生きていくために繋がりを絶とうとする。どちらもその理由は納得できるだけに、最後になるまで互いにわかりあえなかったことが虚しいです。


頼りにすべき保護者もない中で懸命に生きようとする直貴は殺人犯の弟ということでごく普通の人々から差別を受ける。生活費をかせぐためのバイト先、音楽という夢、愛する女性との交際、そして就職先。劇的なほどのタイミングで隠していた兄のことが周囲に知られて。
それも露骨なものは少なく、まるで空気のように見えない阻害感なのですね。
読んでいて、直貴の境遇に同情を寄せつつも、差別してしまう側の感情もはっきり否定できないもどかしさ。もし自分がその場にいたとして、意識せずに接することができるでしょうか?
よほど詳しい事情などわからない限り、誰もが”身内に強盗殺人犯”という非日常感から遠ざかる方向にいってしまうのではないかと思います。


全体的に、あえて直貴の境遇に対して感情に訴えるより、仕事先の社長の台詞を通じて現実の厳しさ、逃れられない血の繋がりを描いたことで、この問題の難しさを読者に突きつけます。
やはりはっきりした答えなど無く、直貴たちはいつまでももがき続けなければならないのだろうかと。
結局、彼を精神的に支えられることができたのは似たような境遇であった女性だけだったのが印象的ではあります。


ちなみに、同じ著者で犯罪被害者の家族の立場で書かれた『さまよう刃』という作品もあるので、合わせて読むといいかも。