4期・14冊目 『マイナス・ゼロ』

マイナス・ゼロ (集英社文庫)

マイナス・ゼロ (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
1945年の東京。空襲のさなか、浜田少年は息絶えようとする隣人の「先生」から奇妙な頼まれごとをする。18年後の今日、ここに来てほしい、というのだ。そして約束の日、約束の場所で彼が目にした不思議な機械―それは「先生」が密かに開発したタイムマシンだった。時を超え「昭和」の東京を旅する浜田が見たものは?失われた風景が鮮やかに甦る、早世の天才が遺したタイムトラベル小説の金字塔。

元々は1970年に発表されたということで、日本SFの、そしてタイムマシン小説としても黎明期であり、後の作家にも大きな影響を与えたとか。


少年時代に出会った「先生」の遺言によって18年後に訪れた研究所で見つけたタイムマシン。かつて憧れだった女性が昔のまま年の姿であることで確信を抱く。しかし試しに過去に遡ったら、トラブルがあって元の時代に帰れなくなってしまった浜田俊夫は、仕方なく自分自身が生まれた年に別の人間として生きざるを得なくなるのです。
つまり、生まれてからの約三十年間の歳月を二度経験するという特異な人生(伴侶となる女性の出会いも含めて)を歩むこととなり、その行く末には最後までハラハラさせられたものです。ネタばれすると、結局はタイムスリップ自体が彼の人生に組み込まれてはいたわけですが、老年の浜田がもう一人の(過去の)自分のためにいろいろ奔走する様は、個人的にはバック・トゥ・ザ・フィーチャーを彷彿させます。*1


そういったタイムスリップのお約束ごとでも楽しめるのですが、それだけでなくて、あまり知られていない昭和初期の東京に出回っていたアイテムや人々の人情を含めて、レトロな雰囲気が味わえるのも意外な発見。
幼少時代の記憶というのは残っていても身近なものに限られ、社会の雰囲気など後になってからしか知りえないもの。それを大人として体験できるのはある意味羨ましいことですが、生活していくのはまったく別です。その時代に無い知識を元に利益を得ようとしても、個人の記憶というものがいかに曖昧かということを知らされます。


メインである昭和初期の描写は著者の思い入れ*2もあってか興味深くはあるものの、やや冗長的に感じましたね。終盤のタイムスリップのスタート地点に戻る章が個人的には一番面白かったし、重要なシーンではないでしょうか。
そこでいくつかの謎が解けるわけですが、本来のタイムマシンの持ち主であろう「先生」のこと*3、誤って未来に来てしまった警官がどうなったかは説明されずに終わったのが気になりました。

*1:発表はもちろんこちらが先

*2:著者本人が子役で登場

*3:まぁタイムマシンの出所はあえて明かす必要はないのか