- 作者: 京極夏彦
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1998/09/14
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
この世には不思議なことなど何もないのだよ―古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第一弾。東京・雑司ケ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は二十箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。
分厚い本というのは、読むのに時間がかかるけれど、設定とストーリーが巧くできているほどハマリ度も高い。そのお手本のような作品でしたね。
前半、依頼を受けた関口が京極堂こと中禅寺秋彦に相談する場面では、怪異現象における認識論についての議論(と言ってもほぼ京極堂の独壇場だけど)は興味深い部分はあるけれど正直長いなと感じました。しかしこれが数々の謎に包まれた事件の解明に繋がってくるとわかる後半に至るともう最後まで止まらない。
何と言ってもこの作品の良さは、憑き物や呪いといったオカルト的要素を祟りだの超常現象のままとせず、かと言ってただの幻覚と即断せずに、民俗的な歴史的経緯と精神医学的な観点から現代人にも納得しやすいように説明してある点ですね。そういう意味で「この世には不思議なことなど何もないのだよ」という台詞に改めて納得する次第です。
中禅寺秋彦による謎解きの手始めで、病院関係者を相手に宗教や呪いに関する一般的な認識を論破するくだりが個人的には大いに受けましたね。
最後は途中までいかにも不可思議に見えた謎を一刀両断に解明されていくのが、驚きと同時にすっきりとさせてくれます。もっとも多重人格者だった真犯人という種明かしはホラー系を嗜む読者にとってはやや新鮮味に欠けるかなぁというのはちと余計な感想ですがね。