3期・56冊目 『墓地を見下ろす家』

墓地を見おろす家 (角川ホラー文庫)

墓地を見おろす家 (角川ホラー文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
新築・格安、都心に位置するという抜群の条件の瀟洒なマンションに移り住んだ哲平一家。問題は何一つないはずだった。ただ一つ、そこが広大な墓地に囲まれていたことを除けば…。やがて、次々と不吉な出来事に襲われ始めた一家がついにむかえた、最悪の事態とは…。復刊が長く待ち望まれた、衝撃と戦慄の名作モダン・ホラー

死の穢れが様々な怖れの根源だとしたら、まさに墓地というのはその集積地なわけで、墓地に囲まれているという立地(おまけに他に見えるものは廃墟と化した都営団地と寺と火葬場)は怪談話にお誂え向きとしか言い様がないですね。それがいかにも何か出そうなボロアパートや古めかしい屋敷ではなく、一見霊現象には縁が無さそうな近代的マンションという舞台設定が面白そうだなと思ったりしました。*1


主人公夫婦は現代風の合理的精神を持つ大人で、霊感などよりも経済的な理由や立地条件の便利さを優先させてそのマンションを購入するのですが、引っ越して早々に新たな生活に希望を抱いていた一家を襲う数々の得体のしれないモノたち。
そのモノ(霊的な何か)たちはテレビ画像に干渉したり、エレベーターやドアを止めるという物理的な妨害、更に人をも傷つけ終いには命を奪うことさえ容赦しないほどですが最後まで正体がはっきりしません。せいぜい音や気配でしか知りえないのです。
読んでいると、どうも地下が関係するらしいのですが、由来やその意図は結局明かされないのがなんともすっきりしませんね。
数多くの怪現象もあって住人たちは次々とマンションを出て行くのですが、先に引越し先を見つけた管理人や井上一家が不可解な妨害を受けるものの無事にマンションを出られたのに対し、なぜ主人公の加納家だけがあそこまで執拗な妨害を受けるのか?過去に何があったのか調べるくだりも中途半端だし。疑問に思う点はいくつもありました。


まぁ消化不足の疑問はさておき、始めは気にしなかった主人公たちが徐々に追い詰められて行く心理的な恐怖の描写はさすがです。彼らが感じる恐怖を容易に想像し感覚的に味わうことができます。そんな中、あくまでも家族を守り前向きに生きていこうとする姿も好ましい。
ああ、それでも気になる点は多すぎますね〜。夫婦の過去に関する自殺した女性や引越し当初に死んでしまい、その後長女の夢にでてきた小鳥など、前半の伏線らしき気になる点がうやむやになって、最後は強引にもっていってしまった感がありました。

*1:もっともよく考えると一階ずつに二部屋しか無かったり、地下が閉鎖された空間で出入りがエレベーターしか使えないというのはなんか変。建設時に何かいわくがあったと想像するしかないか。