3期・16冊目 『英仏百年戦争』

英仏百年戦争 (集英社新書)

英仏百年戦争 (集英社新書)

出版社/著者からの内容紹介
直木賞作家にして西洋歴史小説の第一人者が、錯綜する世界史上最大級の事件をやさしく解きほぐし、より深いヨーロッパ理解へと誘う。これまであまり例のなかった、英仏百年戦争の本格的概説書。

今まで百年戦争のことはあまり知らず、そもそも佐藤賢一氏の著作『双頭の鷲』や『傭兵ピエール』にて個々の人物や戦いなどを知りえてウィキペディアでさらっと読んでみたくらい。
それでもこの戦争はイギリスとフランスという国が約100年にも渡って延々と、戦いと講和を繰返したという認識でした。どちらの作品もフランス側に立っていて、実際にほぼフランスが戦場になっているので、イギリスが侵略者、というか大陸の揉め事にちょっかいを出す厄介者であるようなイメージでさえあったものです。


そういう多くの人が陥りやすい誤解というか歴史の認識不足を見事に解決し、中世から近世へかけての英仏両国の外交・内政についてわかりやすく説かれている著作と言っていいでしょうか。そもそも歴史上の事件を理解するには、当該の事件だけでなく背景(前史)を知り、そして制度や権威といったその時代の常識も知らなければならないという当たり前のことを教えてくれるのです。
というのも現代の我々の感覚で知っている国のかたちであるイギリスとフランスが戦っていたというのが誤りの元であるし、英語表記を基本としているのも誤解のもとであるわけで。


詳細な説明は避けますが、もともとは後世フランスと呼ばれる地域における、ある大領主貴族の遺産相続争い(婚姻関係を通じてフランス王家も絡む)に端を発して、結果的に敗れて当時植民地であったイングランドに押しこめられた側が、大陸の領地を奪い返そうと何度も試み、そのうちイングランド王家とフランス王家の戦争に形を変えていったという。ちなみにその貴族というのがアンジュー伯爵家であり、エニシダの紋章からプランタジエ(英語名:プランタジネット)とも言われる。初代はアンリ(ヘンリー2世)で跡を継ぐのはリシャール(獅子心王リチャード1世)、ジャン(欠地王ジョン)てわけですが、英名と仏名で印象が変わるのがわかります。後世リチャード1世なんて呼ばれるけれど、実際はフランス語しか喋らず、フランス人という意識だったなんて驚きです。


王家は存在するけど、封建領主の力も強く、家門ならびに領地第一。王の権威は都合によって利用されたり排除されたり。日本や中国の封建時代を見ても似たようなもんですね。それが戦争間に内政に力を入れて法整備を整えたりする内に、双方に国家・国民としてのナショナリズムが芽生えていったというわけなんです。
そういった意識的な変化は、ただ戦争の流れをなぞっていただけでは得られなかったわけで、読んでいるとそれまで点と点だった出来事が繋がり納得できます。更にその後の両国の歴史の発展を考えるととても興味深い。逆にドイツ(神聖ローマ帝国)・イタリアは世俗の権威を巡る争いにもたつき、国家としての統一に遅れを取ったのが近代の海外進出に響いてきたなんてねぇ。


またシェークスピアジャンヌ・ダルクによる愛国心の高揚効果にも言及していて、両国の百年戦争の捉え方の違いが面白い。戦争の勝敗を入れ替えるなんて日韓の歴史認識の違いってレベルじゃねーぞ
それはともかく、流れを見ていくと、実際は30年あるいは50年で終わっていた可能性もあったのですが、もしそうなっていたらその後の史実が大いに変わっていたかもしれない。百年戦争あっての現代の英仏両国であることがよくわかるのです。