3期・11冊目 『メルキオールの惨劇』

メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)

メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
人の不幸をコレクションする男の依頼を受けた「俺」は、自分の子供の首を切断した女の調査に赴く。懲役を終えて、残された二人の息子と暮らすその女に近づいた「俺」は、その家族の異様さに目をみはる。いまだに発見されていない子供の頭蓋骨、二人の息子の隠された秘密、メルキオールの謎…。そこには、もはや後戻りのきかない闇が黒々と口をあけて待っていた。ホラー小説の歴史を変える傑作。

難病のため首から下が完全に麻痺し、介添え無しには生きていけなくなってしまった男が無上の喜びを覚えるのが他人の不幸。例えば不慮の事故で未来を閉ざされた子供の遺品、それも生々しく事故を思わせるほど価値を見出し大金を払ってでも収集して眺める毎日。そんな男が入手の難しい加害者側(例えば子殺しの親)の物品に興味を覚えたところから「俺」が仕事に乗り出す。


すごく興味をそそる導入部にシュールな会話シーン。いやがうえにも期待は高まったのですが、読み進めていったらさほど刺激的ではありませんでしたね。「ホラー小説の歴史を変える傑作」というのは言い過ぎのような。全然怖くはありませんし、物語的にも中途半端で盛り上がりに欠けた気がして、ちょっと不満。まぁメルキオール(兄)とバルタザール(弟)の生き残りをかけた静かな戦いは見ものでしたが、むしろただの調査員では無いだろうと思わせといた「俺」が実は相当な殺人鬼だったという過去*1が途中に述懐されるので、そちらをもっとほじくり返してくれたら面白かったかもしれないです。


ところで本作に登場するメルキオール、バルタザールについて。
他でも見たことがあるので調べてみたら、新約聖書福音書の『マタイによる福音書』にあらわれる東方の三博士の名で、イエスが生まれた時にそれぞれが贈り物として捧げたものに象徴されているそうです。

  • メルキオール Melchior (黄金-王権の象徴、青年の姿の賢者)
  • バルタザール Balthasar (乳香-神性の象徴、壮年の姿の賢者)
  • カスパール Casper(没薬-将来の受難である死の象徴、老人の姿の賢者)

wikipedia:東方の三博士

*1:その正体を知った人数=12(トゥエルブ)を名乗りに使っている。ちなみにその12人は全て死んでいる。