2期・76冊目 『スキップ』

スキップ (新潮文庫)

スキップ (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
昭和40年代の初め。わたし一ノ瀬真理子は17歳、千葉の海近くの女子高二年。それは九月、大雨で運動会の後半が中止になった夕方、わたしは家の八畳間で一人、レコードをかけ目を閉じた。目覚めたのは桜木真理子42歳。夫と17歳の娘がいる高校の国語教師。わたしは一体どうなってしまったのか。独りぼっちだ―でも、わたしは進む。心が体を歩ませる。顔をあげ、『わたし』を生きていく。

時間というのは万人に公平に過ぎていくものだけれど、この物語の主人公・一ノ瀬真理子には25年という長い期間をパスされてしまうという過酷な運命が訪れたわけです。しかも17歳からというのは、人生の中でも輝いている季節というか、使い古された言葉でいうと「青春」とも言うし、その後を考えると重要な節目の時期でもありますね(就職とか結婚とか)。
それを経験する間もなく、42歳の母であり高校教師である自分を生きなければならない。家族という味方*1があっても耐えがたいものじゃないでしょうか。もし自分の身に置き換えて想像すれば、記憶喪失という他者に説明しやすい理由で逃げてしまいたくなります。


だけど主人公は桜木真理子として現実に向き合う。たとえ見ず知らずの環境であっても自分自身である以上、必死になって今の自分を生きようとする姿勢に胸が熱くなります。
仕事に対しては家族のサポートがあるものの、17歳の心なりのひたむきさがすごく爽やかです。生徒一人一人と向き合う教師という職業は中身の年齢が違っていても天職だったのかと。*2
42歳の主人公は若く見られる箇所が随所にあるのだけれど、そこは中身が外見に反映しているのだろうなぁと素直に感じました。体だけでなくて心も歳を取っているんですね。
そして当人は大変なのだろうけど、様々な時代のギャップは実感できる点もあって微笑ましい。


そしてやはり本作から強く伝わってくるテーマが「自尊心」。
理不尽な状況に遭っても「わたし」のために今を懸命に生きる主人公。
また、「わたし」であるために部活を辞めたことが明かされる女子生徒のエピソード。
時が経ち、時代が変わっても、これだけはと誇れる自分の心を持ち続けたいと思わされました。

*1:しかし両親がすでに他界しているというのが辛い点

*2:現実的には果たして17歳に授業が務まるかという疑問もありますが。でも作中の生徒たちは楽しそうだなぁ。