2期・67冊目『ダルタニャンの生涯―史実の『三銃士』』

ダルタニャンの生涯―史実の『三銃士』 (岩波新書)

ダルタニャンの生涯―史実の『三銃士』 (岩波新書)

出版社/著者からの内容紹介
小説,そして映画や演劇を通して,世界文学中もっとも有名な主人公は実在の人物だった.絶頂期のフランス王朝の都パリに上ったダルタニャンを迎えた,波瀾の史実とは.出仕,陰謀,栄達,確執….小説よりも奇なる,人生という冒険に挑んだ男の足跡を生き生きと再現し,歴史の醍醐味を伝える.直木賞作家初のノンフィクション.

実は私、『三銃士』は読んでなくてですね。*1読書前にウィキペディアで予習しましたよ。
やっぱり『三銃士』を読んでおき、史実によってイメージを覆されるのを楽しむべきだったか。


でも結果から言ったら、ほとんど前知識が無くても佐藤賢一による史実のダルタニャンの生涯も充分楽しめたのですけどね。
小説に見られる著者特有のくどさは無く、17世紀フランスにおけるこまごまとした動きがわかりやすく書かれているのが特徴。
貧乏貴族の子弟(しかも跡継ぎでない)であったシャルル・ダルタニャンがなぜ単身パリを目指したか。時の権力者であるマザランルイ14世に重用されたのはなぜか。武人としてかなりの地位まで出世し王の寵遇を得たのにも関わらず死後は遺産どころか借金しか金庫に残っていなかったのはなぜか。
現代の視線からでは当然のごとく湧き出る疑問に対して、ガスコン*2の気風や当時の雰囲気、そして何よりもダルタニャンの素顔に迫ることによって明らかにしていきます。そして気づかぬ内に「我らが主人公」*3こと史実のシャルル・ダルタニャンに魅了されている自分に気づくのです。
ルイ14世リシュリューマザランといった歴史上の有名人とまでいかなくても、シャルル・ダルタニャンは騎士道精神を持って確実に歴史に名を残したわけです。そして史実のダルタニャンの苦心と栄誉に満ちた生涯が無かったら、傑作『三銃士』も生まれなかったのだと。

*1:藤本ひとみ『ブルボンの封印』は読んでいたので主要人物のイメージは掴んでいたけど

*2:武人の産地であったガスコーニュ地方出身者

*3:本書での言い回し