- 作者: 飯嶋和一
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2005/12/06
- メディア: 文庫
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ちなみにタイトルは、神無月(十月)十日のことですが、読み始めたのは十月十日過ぎの13日の金曜日でした(^^;
序章では、事件直後に村に入った大藤嘉衛門という近隣出身の人物の目を通して、何らかの事件が起きたことを匂わす内容に始まります。
そして本編では主人公とも言える石橋籐九郎の初陣から遡り、どういう事情があって、事件が起こるまでに至ったのかを追っていきます。
歴史小説ではあるけれど、ミステリー小説仕立て風な気もしますね。
わずかにしか遺されていない史料を元に、ここまでのボリュームで濃密な物語に作り上げた手腕には、いつもながら驚嘆に値します。
端役の人物のバックグラウンドまでちゃんと書き込まれているので、1人1人の登場人物の想いがよく伝わってきますね。
それでいて、ことを穏便に収めようとする動きが、いくつかの偶然やすれ違いによって潰され、後は坂道を転がるように、悲劇へと走っていく様は淡々としています。
飯嶋和一の作品を読んだのは今回で3作目ですが、前までの違って印象深かったのは、序章ですね。
事件直後、ついこのあいだまで人が暮らしていた気配がそっくりそのまま残る無人の村には不審を感じさせます。
このあたり、解説では一村まるごと失踪の伝承話の影響を指摘していますが、確かに私としても子供の頃に読んだ世界のミステリーを思い出しましたね。
同じように村民が丸ごと消えてしまった話とか、船員が忽然と消えて漂流していた船の話などです。*2
読書後、「小生瀬騒動」または「小生瀬一揆」に興味を持ったのですが、水戸藩によって抹殺されて、史料がろくに遺されていないようです。
だからググってみても該当する記事も極めて少ないです。
そんな中でも、詳しく書かれていたURLを紹介しておきます。
「生瀬一揆400年忌回向」
http://www2.ttcn.ne.jp/~voce-someno.y/
概要を非常によくまとめられたサイトです。現地の写真も付いています。
諸説ある事件の発生時期・理由や1村虐殺に至ってしまった経緯について推測されています。
フィクションとの混同は危険ですが、本書を読まれた方ならすんなり思える部分が多いですね。
「加藤木家の歴史」8 徳川氏水戸に入る
http://www.katogi.com/history/senzo15.htm
山川菊栄著「覚書幕末の水戸藩」という書物からの引用で紹介されています。
簡単にまとめますと、
慶長7(1602)年秋、小生瀬の村落に年貢取り立ての役人が来たので直ちに納税したところ、その2,3日後*3にまたもや催促の役人が来た。村人たちはてっきり偽者に違いないということになり、その役人を殺害した。(真実は、後から来た役人の方が本物で、前に来た方が偽者であった)
役人襲撃を知ることとなった藩側では、治世の初めに甘い顔を見せてはならぬとばかりに、直ちに兵を率いて小生瀬を襲って逃げまどう老若男女を片はしから斬りまくり、辛うじて隣接する他領に落ちのびた数名の外は皆殺しにしてしまった。
*2:確証は無いですが、前者はイヌイットの村の話(http://roanoke.hp.infoseek.co.jp/vanishing%20file/Anjikuni.htm)で、後者はメアリー・セレスト号の話(http://ryoshida.web.infoseek.co.jp/kaiki/34marry.htm)のような気がします
*3:半月後と書かれている場合もあり。