9期・5冊目 『首無の如き祟るもの』

首無の如き祟るもの (講談社文庫)

首無の如き祟るもの (講談社文庫)

内容紹介
奥多摩の山村、媛首(ひめかみ)村。淡首(あおくび)様や首無(くびなし)の化物など、古くから怪異の伝承が色濃き地である。3つに分かれた旧家、秘守(ひがみ)一族、その一守(いちがみ)家の双児の十三夜参りの日から惨劇は始まった。戦中戦後に跨る首無し殺人の謎。驚愕のどんでん返し。本格ミステリとホラーの魅力が鮮やかに迫る「刀城言耶(とうじょうげんや)」シリーズ傑作長編。(講談社文庫)

舞台は奥多摩の山村、媛首(ひめかみ)村。
戦国時代、北条方に属していた一帯の領主が豊臣勢に攻め込まれて落城した際に嫡男と姫が脱出したが、姫だけが追っ手に捕らわれ無残にも首を狩られ遺体は放置されてしまう。時代は下って江戸時代、使用人と駆け落ちした妻が許されて戻った際に騙し討ちを受けて夫に首を落とされ殺される。
どちらも同じ「淡」という名の斬首された女性が村に祟りをなしたということで、二人とも淡首(あおくび)様として祀られることになりました。
そして村を治めているのが秘守(ひがみ)一族。三家に分かれている中でも一守(いちがみ)家が本家格なのですが、代々の男子が最も淡首様の祟りを受けるために病弱で早逝することが多く、何度もお家断絶の危機を迎えながら辛うじて家系を保ってきたと言う。
そのために跡取りと目された男子には祟りから守護するために様々な厄除けをかけられてきた。とここまでが前提。


一守家に双子の男女が生まれ、長男・長寿郎は跡取りとしてそれはそれは大事に、長女・妃女子には長男の代わりに災いを受けるよう明らかに差別されて育てられました。
長じて、子の成長のための独特の行事である十三夜参りに参加した妃女子が井戸で死亡し、殺人か事故かわからぬまま葬られた事件。
そして十年後、今度は長寿郎の見合いを兼ねた花嫁決めの儀式の場で起こった連続首無し殺人事件。
結局犯人がわからぬまま迷宮入りした事件の謎を当時関係者に近い関係であった使用人(斧高)と駐在(高屋敷)の目線で駐在未亡人が小説形式で執筆するという体裁を取っています。


『のぞきめ』に続いて読んでみた三津田信三の作品ですが、相変わらずおどろおどろしい雰囲気*1ながらつい引き込まれてしまいます。
戦中戦後の前近代的な風習の残る村を舞台に、事実上の密室状態の神域で行われた儀式の中で起こった殺人事件。
また一癖も二癖もある一守家の複雑な人間模様に、二守・三守家も加えて表面化する跡継ぎ騒動。
相次いで起こる事件の謎に振り回され、そして終盤に起こる怒涛のどんでん返し。
ここまで振り回されるともう脱帽としか言いようにない読後感でした。
ネタバレすると楽しみが失せてしまうので秘められていた真実については書かないでおきますが、斧高が同じ男性である長寿郎に抱いている好意が純粋な敬意なのか同性愛的なものなのか悩んでいたり、長寿朗の母や家庭教師・乳母の態度とか、細かいところで数多くの伏線があったのだと気づかされました。
奇抜なトリックにありがちな強引さも感じさせなかったのも良かったですね。そこは淡首様にまつわる独特の因習とうまく融合させていたと思われます。
まさにホラーの推理小説が見事に融合した傑作であります。

*1:表紙もその印象作りに一役買ってる